2019 Fiscal Year Research-status Report
非エルミート保存量を用いた可積分系スピン鎖のダイナミクスの解明
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18K13465
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| Research Institution | The University of Tokyo |
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Principal Investigator |
松井 千尋 東京大学, 大学院数理科学研究科, 准教授 (60732451)
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| Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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| Keywords | 一般化ギブス集団 / 準局所保存量 / 可積分スピン鎖 |
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| Outline of Annual Research Achievements |
可積分量子スピン鎖のダイナミクスを解明するため、スピン1/2をもつ異方的ハイゼンベルグスピン鎖（XXZ模型）を例にとり、その一般化ギブス状態（GGE）を構成した。また、ギャップのない領域におけるスピン流の弾道性とスピン反転対称性をもたない（SFNI）準局所保存量との関係を明らかにした。
XXZ模型は、スピン反転対称なハミルトニアンをもつにも関わらずSFNI保存量をもつという特徴がある。SFNI保存量はスピン流を表す演算子とのヒルベルト＝シュミット（HS）内積が非零になるため、非平衡定常状態を調べる際に重要な量である。
非可積分な孤立量子系が長時間経過後に熱化してギブス状態で記述されるのに対し、可積分系はそれがもつ多くの保存量によって緩和過程が強く制限されるため、通常の意味で熱化しないことが知られている。代わりに、十分に緩和した可積分系は、ギブス状態におけるハミルトニアンを保存量の線型結合に置き換えたGGEで記述されることが、多くの解析的・数値的研究によって明らかになりつつある。一方、GGEを構成する際に必要十分な保存量の組がどのような要請を満たすべきかは未解決である。
本研究では、まずXXZ模型におけるSFNI保存量を構成した。つぎに、XXZ模型の定常状態が熱力学極限においてベーテストリング密度の組で完全に特徴付けられることに着目し、SFNI保存量を用いてGGEを構成した。具体的には、ベーテストリング密度の組を完全に決定するのに必要十分な保存量の組が、関数的に独立かつ示量性をもつものから成ることを明らかにした。同時に、示量性をもつSFNI保存量は互いに線型従属の関係にあることを示した。
またスピン流は、それと非零なHS内積をもつ保存量への射影部分が弾道性を示すが、熱力学極限において、スピン流と非零なHS内積をもつSFNI保存量が満たすべき条件を明らかにした。
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| Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は本研究課題開始から二年目にあたる年である。研究計画では、二年目までに三つの課題 A. XXZ模型に対する非エルミート保存量の構成、B. 非エルミート保存量を用いたカレントの弾道性の証明、C . 非エルミート保存量を用いた準熱化状態の記述 を完成させる予定であったが、周期的境界条件下でのXXZスピン鎖に対してすでに結果を得ており、その意味で他の模型に対しても解析手法は完成させていると言える。研究結果は複数の国際学会にて発表しており、また論文としても出版されている。したがって、進捗状況としてはおおむね順調に進展しているといえる。
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| Strategy for Future Research Activity |
研究計画では、今年度から最終年度にかけて課題D. 非時間順序相関関数の計算および長時間極限における振る舞いの解明 に取り組む予定であったが、関連分野の研究者と意見交換を行う中で、熱平衡状態や十分に緩和した状態がどのような要請を満たすべきなのかについて興味を持った。昨年度までに求めたXXZ模型におけるGGEをベンチマークに、KMS条件の拡張やそれが状態に要請する物理的性質の解明にも取り組んでみたい。
また、臨界点直上（XXX模型）におけるスピン流に対するドルーデ重率の振る舞いにも興味がある。XXX模型におけるスピン流の振る舞いは解析的・数値的ともに困難で、多くの相反する研究結果が存在する。近年、非平衡に関わる可積分系の研究は目覚ましい進展を遂げており、また、昨年度にスピン反転対称性をもたない（SFNI）保存量の性質の多くが明らかになったことから、従来の方法では解決できなかった「XXX模型におけるスピン流は弾道性を示すか？」という問いに答える準備が整いつつある。SFNI保存量の代数的性質と、物理的な考察の両方からアプローチすることで、XXX模型におけるスピン流の振る舞いを明らかにすることを目指す。
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| Causes of Carryover |
初年度に予想より多くの講演が招待となり、国外出張費として計上していた分が持ち越しとなっている。今年度は研究計画を少し変更する予定であることも考慮し、その知識収集に必要な書籍や研究者との打ち合わせに利用したい。また、コロナウイルス拡大に伴う研究のオンライン化に必要な機材を揃えるのに利用する。
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Research Products
(6 results)
