2018 Fiscal Year Research-status Report
開放量子系としての量子計算機モデルと、それに基づく量子アルゴリズム
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18K13467
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
添田 彬仁 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (70707653)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 量子情報(理論) / 量子アルゴリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究において、量子系ダイナミクスの操作は中核的な役割を果たすが、量子情報処理の実行に際して、量子計算機独自のダイナミクスと異なる量子操作(すなわち人工量子ダイナミクス)の実装を求められる。その観点からも、独自ダイナミクスを「抑制」する方法は、実装可能な量子操作の範囲を特定するための一種の試金石的な役割を果たす。今回のように、独自ダイナミクスがユニタリな場合、ダイナミクス抑制の一つの方法として、ユニタリ操作の「逆操作化」を用いて、独自ダイナミクスを打ち消す方法が考えられる。この逆操作化とは、未知のd次元ユニタリ量子操作を施すことが保証されているブラックボックスがあるとき、ブラックボックスが本来実装するはずのユニタリ操作ではなく、その逆変換を実装するように量子回路を設計する問題である。これまでの先行研究では、「正確」かつ「決定論的」な逆操作化は、入力とされるユニタリ量子操作を1回使用する範囲では不可能であることがしられており、今年度の研究成果は、この従来の知見を覆すものになった。それは、我々が発見した量子アルゴリズムは入力量子操作を複数回利用するためであり、今後の量子アルゴリズム設計において、この「複数回利用」は高階量子操作の実装可能性を広げる可能性を有することが改めて判明した。なお、本研究において、逆転化させる万能プロトコルは、たとえ確率的な実装であってもかならずd-1回入力ユニタリ操作が必要なことを証明し、我々のプロトコルは利用回数において最適であることが示せた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の主目的である開放量子系としての量子計算機モデルに関して、まず開放量子系のモデル化について現在判明している範囲を改めて調査した。念のため、自然界の基本相互作用から検証を始めた。重力は十分弱いと想定されるため、まずは無視することにした。それ以外の相互作用について素粒子物理の基本模型から検討し、量子電磁力学はキログラム原器の再定義の基本理論として用いられていることなどから、現時点において実験的に検証されている範囲で最も信頼性が高くかつ計算手法が確立している理論であると考えられる。一方で、外部から操作する量子系に関しては、本研究が求める精度で詳細な議論を展開している先行研究は発見できなかった。その意味で、本研究は新領域を開拓しつつあると言える。 また、本研究計画では、独自の量子ダイナミクスを有する量子系を操作し、物理学的に有意味な情報処理を実現する量子アルゴリズムを構築することにあるため、この独自ダイナミクスを変換する技術が必要となる。これは、数学的には「高階量子操作」を実現することになるが、高階量子操作に関して新しい知見(可能性・不可能性も含めて)を解析するための数学的手法を整備しつつあり、成果が得られ始めている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究計画において、外部から操作される量子系を高精度に記述するモデルを構築することは、計画の中核をなす。ゆえに、可能な限り正確なモデルを構築するために、モデルの導出に必要な近似仮定を列挙し、利用した近似の整合性を確認する。最も基本的な物理理論として量子電磁力学に限定し、モデル構築をする。その際に、(1)量子系の速度が光速に比べて十分小さいこと(非相対論近似)、(2)外部電磁場が「古典的電磁力源」によって生成されていること(これは電磁力源を構成する「量子系」がそれ以外の量子系の影響を受けないことに想定する)、(3)電場・双極子相互作用の仮定(これは一種の非相対論的である)、(4)Lindblad型マスター方程式の導出に伴う様々な仮定などが導入される。特に、外部から操作されている量子系のダイナミクスを記述するための高精度なモデル構築を目指す。これらの近似は、その成立条件を決定している物理変数が存在するため、実験値を元にこれらの条件が成立する量子系を検討する。情報処理で重要なのは、出力結果の信頼性であり、これは計算途中で生じたエラーを適切に見積もることが求められる。そのため、近似精度を可能であれば数学的に評価する。また、数学的な評価はかなり保守的になると思われるため、数値計算などを利用して実際生じるエラーの参考値を求めたい。これまで知られている開放量子系の時間発展方程式は、多体系の場合、異なる導出が複数個知られており、それらの整合性は必ずしも自明でないため、本研究が想定する量子系において最適なものを検証する。なお、入力量子操作を複数回利用することで、量子操作の制御性が拡大されることに留意し、効率的な量子アルゴリズムの構築への応用を検討する。
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Causes of Carryover |
研究室より支給されたパソコンの消耗が予想より軽度で済んだため、新規パソコンの購入を延期することにした。国際会議・研究会出席に複数回参加することを予定しており、それに伴う渡航費・宿泊費を計上していたが、今回は1件の国際会議が日本国内で主催され、費用が大幅に削減された。また、そのうち複数にて共著者が発表することになったため実施者本人の渡航を控えた。一部の研究会参加では、主催者が宿泊関係費用を負担したため、本研究予算よりの支出は減額された。
令和元年度は、当初予定していた新規パソコンの購入および関連周辺機器の購入を計画している。また、関連研究分野の国際会議参加(現時点で計2回の予定)のための参加費・渡航費・滞在費・その他経費を支出予定である。なお、研究の進捗状況に応じて、参加学会数が増加する可能性がある。その他、必要書籍の購入ならびにデータ整理用機器の購入を予定している。
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