2021 Fiscal Year Research-status Report
開放量子系としての量子計算機モデルと、それに基づく量子アルゴリズム
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18K13467
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
添田 彬仁 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (70707653)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 量子情報 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、まず、量子操作の識別問題に取り組んだ。対象となる量子操作が「量子ゲート」として与えられているとモデル化し、まずは簡単のためこれを1 回のみ利用して良い状況を想定した。また、この対象量子ゲートは、複数の候補(我々は簡単のため2 個とする)から確率的に選ばれていることが約束されているとする。先行研究では、これら候補量子ゲートの完全な古典的記述が与えられていると仮定したものが存在するが、我々はそのような古典的記述に依存しない「万能」識別問題を考えた。このとき、候補量子ゲートは新たな量子ゲートとして与えられる。いま、1 番目の候補量子ゲートの利用可能な回数をN1、また2 番目の候補量子ゲートのをN2 とする。候補量子ゲートと対象量子ゲートをすべて並列的に利用する識別量子回路を用いるとき、N2 および対象量子操作の個数が固定の場合、N1 を増やすことによる最高平均成功確率はある一定の個数以上は向上しないことが証明された。当該結果を論文形式にて発表した。 また、量子操作の同一性判定問題にも取り組んだ。最も基本的と考えられる、二種類の未知のユニタリ量子ゲートが同じ作用を持つか否かを判定する問題を考えた。過去には、判定対象の量子ゲートの古典情報が与えられている場合は考察されているが、本研究では、そのような仮定は置かず、完全にランダムに選ばれていると仮定した。問題を半正定値計画法に還元し、ユニタリ群表現論や数値計算を用いて問題を解析した。その結果、「実際は異なる量子ゲートを、『同一』と判定してしまうエラー」を0にすることができることが判明した。また、判定対象の量子ゲートの利用回数を増大すれば、判定しやすくなると予測されたが、片方の量子ゲートの利用回数を固定した場合、もう一方の量子ゲートの利用回数を増加させても判定成功確率が頭打ちすることを示した。現在、論文にまとめている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究プロジェクトは量子系を「うまく」操作する技術が存在することが大前提となっており、それを考案するための一つの方法として、高階量子情報処理を採用している。まず、量子シミュレーションを通じて何らかの有用な情報を得るためには、量子系を適切に状態発展させることは当然ながら、量子状態自体は人間が理解できるものではないため、そこに量子測定を実施してほしい情報を引き出すが必要である。しかし、与えられた量子系に完全に任意の量子操作が可能だとしても、その量子系の量子状態を1回の量子測定で完全に知ることはできない。一方で、量子トモグラフィは量子状態を特定する方法と知られているが、精度の高い特定は膨大な量子情報処理資源が必要であり、量子状態を特定する古典情報も多体量子系では膨大になるため、それを処理するための古典情報処理資源も膨大になる。これまで、量子情報における識別問題として、量子状態の識別問題は詳細に研究されてきたが、「量子操作」の識別問題は依然として未解決問題が多数残されている。本年度の研究は、この量子操作の識別問題(同一性判定問題もその一種である)にたいして、解析手法を発展させ、新原理を発見し、論文として発表できた。なお、複数の量子操作の解析は、対応するヒルベルト空間が指数関数的に増大するため、解析が一般には困難であるが、それにも関わらず非自明な結果を出せたことを意味し、我々の手法の有用性による。また、この研究は、識別対象の量子操作を古典情報に変換する問題を考察ともみなせ、高階量子情報処理の一環であり、量子系の操作技術に関する理論の発展を意味する。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、同一性判定問題に関する結果をさらに発展させ(たとえば、より高次元のユニタリ量子ゲートなど)、論文として発表する。また、量子計算機を開放量子系とみなした場合の状態発展方程式を特定すべく、引き続き、現在知られている量子系で量子情報処理に有用視されているものに関する実験報告の論文調査を行う。理論面では、高階量子操作の消費資源の解明・見積もりとその改善、また精度の評価改善を行う。入力操作の古典情報的記述に依存しない操作変換が、機械学習でいうところの入力不可知型のアルゴリズムに類似していることから、これららの知見を活用できないか検討する。なお、新型コロナウイルス感染症の影響より、海外出張を控えていたが、次年度は可能な限り積極的に海外の研究会参加や研究者との交流をはかり、我々の結果の発表や共同研究(とくに実験家との)を模索していく。
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Causes of Carryover |
主に、新型コロナ感染症のため、国内外の出張がすべて廃止になり、また国際学会の参加がすべてオンラインになり参加費が無料になった。
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