2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K13468
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
李 宰河 東京大学, 生産技術研究所, 特任助教 (20816607)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 量子基礎論 / 量子測定 / 不確定性関係 / 誤差 / 擾乱 / 弱値 / 弱測定 / 精密測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、本研究事業において主に次の3項目の研究を実施しました。
1)幾何学的観点からの不確定性関係の新たな定式化:不確定性関係は、その端緒となった Heisenberg の誤差・擾乱の不確定性関係に加えて、現在では様々な型が知られています。本研究は、幾何学的観点から不確定性関係の新たな定式化を提案するものであり、本年度においてはその一般理論を構築しました。本枠組は、複数の既存の不確定性関係をその特別な場合として導出できることから、量子論における競合関係の発現機構の解明に一歩迫る成果であると期待されます。 2)Schroedinger の不等式の最小不確定状態の解析:不確定性関係の統合成立条件を満足する最小不確定状態は、その不等式に特徴的な状態として重要です。さて、Heisenberg に触発された Kennard と Robertson は、一般の量子揺らぎに関する有名な不等式を発見し、これは後年 Schroedinger によって改良されました。本研究においては、上述の枠組から Schroedinger の不等式を見直すことでその等号成立条件の特徴付けを行いました。とりわけ、統合成立条件が反交換子項・交換子項の条件に分離され、これが波動関数の分布項と位相項によって特徴付けられることが明らかになりました。 3)弱測定実験の有効性検証:近年、量子物理量の非可換性を巧妙に利用することで量子測定の精度向上を目指す「弱測定法」と呼ばれる技術が注目されています。しかしながら、弱測定法の有用性に関する理論的な裏付けは盤石ではなく、弱測定法が量子測定の精度の原理的向上をもたらすかを争点として未だ統一的な見解には至っていません。本研究では、申請者らの提唱する不確かさ評価の枠組に基づき、既存の弱測定実験のうち代表的な2つを選んでデータ分析と検証を行うことで、その有効性の実証を行いました。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、第一に不確定性関係の新たな定式化に向けた研究を中心に実施しました。研究は概ね当初の計画通り進行しており、広く量子物理量の競合関係を扱う上での包括的な枠組を構成した上で、新たな不等式の導出や、複数の既存の不等式との関係を明らかにするなど、一連の結果を得ました。この結果は、本研究事業を推進する上での基盤となるのみならず、広く今後の研究の展開が期待されるものと考えています。本成果の公表に関しては、年度内には間に合わなかったものの、現在論文投稿に向けて準備を進めています。第二に、申請者らの枠組に基づくことで、最小不確定状態の観点から Schroedinger 不等式に対し新たな知見を加えました。本成果については、既に学会での発表は行い、現在論文投稿に向けて準備を進めています。第三に、弱測定法に関して、既存の代表的な2実験(光のスピン Hall 効果検証実験および光学干渉計における微小角検出実験)の有効性検証を行い、当初の期待通り、我々の理論的枠組が実験結果を良好に説明する結果を得ました。本成果に関しては、既に学会での発表およびプレプリントの公開を行っており、現在論文を投稿中です。
以上を鑑みて、本研究事業に関する今年度の進捗は概ね計画の通り順調であると判断します。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究事業は概ね当初の計画に沿って進展しているため、今後の研究の推進方策についても大きな変更を加える必要はないと考えています。但し、不確定性関係の研究において構築した一般的枠組は、本研究事業の当初の課題であった不確定性関係の数学的定式化の問題を超えて、広く競合関係に起因する量子物理現象を解析する上でも有用であると期待されるため、今後の発展課題としてこれを念頭におきつつ本研究を展開して行く予定です。また、理論研究に加え、本不等式の実験検証の可能性を専門家との連携を通じて探り、研究の基盤をより強固なものにしたいと考えています。
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