2018 Fiscal Year Research-status Report
高強度テラヘルツパルスによる水素結合型誘電体の高速・高効率分極制御
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18K13476
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
宮本 辰也 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 助教 (40755724)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 超高速現象 / 水素結合型強誘電体 / テラヘルツパルス |
Outline of Annual Research Achievements |
水素結合型分子性結晶であるクロコン酸では、水素結合を形成するプロトンの移動に加えて分子骨格のπ結合の切り替えに伴う分子内電子移動が起こることにより、強誘電分極が生じる物質である。本研究では、高強度テラヘルツパルスによってその分極を高速に変調するとともに、電場による分極変化の物理的機構を明らかにすることを目的とした。 テラヘルツポンプ―SHGプローブ測定を行うことによって、実際に、強誘電分極がテラヘルツ電場パルスによって高速に制御できることを明らかにした。その大きさは、電場強度150 kV/cmで約10%である。この分極変化は、π電子系の分極変化に対応させることができる。また、テラヘルツポンプ―光反射率プローブ分光により、スペクトルの変化を測定した。その結果、テラヘルツ電場を分極と逆向きに印加した場合、π-π*遷移のエネルギーが低エネルギーシフトすることが分かった。DFT計算の結果と比較することによって、電場印加によって実際にπ電子の偏りが変化することが明らかになった。さらに、フーリエ変換赤外分光計(FTIR)を用いて、抗電場以下の静電場のオンオフを繰り返すこと(電場変調分光)によりプロトン振動のスペクトル変化を高精度で測定し、電場によるプロトン位置の変化量を評価した。その結果、電子系が大きく変化したこととは対照的に、同じ電場強度ではプロトンの変化は無視できるほど小さいことが分かった。この結果は、水素結合型強誘電体における分極において、π電子分極が重要であることを実証するものである。 また、有機二次非線形結晶であるDSTMSを利用することによって、2 MV/cmの電場振幅のテラヘルツパルスの発生にも成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、水素結合型強誘電体であるクロコン酸において、テラヘルツパルスを利用した高速の分極変調に成功した。また、その分極変調の起源がπ電子系の変化にあることを明らかにすることができた。さらに、この内容を学術論文として発表した。また、有機二次非線形結晶であるDSTMSを利用することによって、2 MV/cmの電場振幅のテラヘルツパルスの発生にも成功した。これは、当初の計画通りである。そのため、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
室温近傍で強誘電転移を起こすジメチルビピリジンヨーダニル酸塩を対象とする。転移点直上では、水素結合中のプロトンがπ電子系や分子骨格と相互作用しながら集団的に揺らいでいると考えられている。そこで、DSTMS結晶を用いて発生させた超高強度テラヘルツパルスを励起源として、瞬時強電場による巨視的分極生成(常誘電―強誘電転移)を実現する。 また、各種水素結合型分子性誘電体(PhMDA, MBI, DCMBI, [D-55DMBP][Dia]等)に積極的においてクロコン酸やジメチルビピリジンヨーダニル酸塩と同様の研究を行い、強誘電相における電場誘起巨大分極変調および高速分極反転、常誘電体相における巨視的分極生成、を実現する。テラヘルツ電場で誘起される巨視的分極変化、電子状態変化、プロトン変位の各ダイナミクスを測定・解析することによって、分極変化の物理的機構を解明し、高速高効率の分極制御のための物質設計上の必要条件を提示する。
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Research Products
(5 results)