2018 Fiscal Year Research-status Report
単一電子スピンシャトルを利用した高速スピン操作とその物理の研究
Project/Area Number |
18K13482
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
藤田 高史 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (00809642)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 多重量子ドット / 単一電子スピン / スピンシャトル / スピン軌道相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、スピンシャトルを活用し、単一電子スピンの高速操作の実現、その量子情報処理の基本操作への応用と基礎物理の解明を目指している。この提案では、スピン軌道相互作用と多重ドットのトンネル操作を利用することで、電気的な操作のみでスピンの高速操作を実現する可能性があるため、スピンを操作するためのその他の構造を載せる必要がない。その簡略化を利点として、将来的に大規模集積化したスピン系の実現や、光子など外界の量子状態といった、複合的なデバイスの作成を可能にし、さらに複雑な物理へと研究が進む期待を持っている。 昨年度はまず、本研究室の主要な極低温設備の基本セットアップに追加する形で、量子ドットのポテンシャルを数マイクロ秒で変調可能な定電圧印加系、スピンの状態を高速に精度よく読みだす道具としての高周波反射型測定系、スピン操作を実現するために必要な高周波電圧印加系、などを構築し、これらの信号を低温下の測定試料に同時に導入できるようなチップキャリアの回路を作成した。 海外の共同研究者から提供を受けた基盤に微細加工を施し、四重量子ドットの試料を設計し、低温下で結合した4ドットの形成とその電荷検出を達成した。引き続き単一電子スピンの検出や操作を可能にするための多重ドットの調整と、上記の測定機能を同時に扱うための追加の測定ソフトウェアの開発を進める。これにより、スピンシャトル及びスピン回転の測定を行う測定系の準備が整うことになり、今年度は予定通りスピン操作の実験が可能であると見込んでいる。位相緩和時間より十分高速なスピン回転を目指すとともに、シャトル中、あるいは電子のトンネル効果中にスピンへ作用する効果を定量的に調べ、また仮想準位が絡んだトンネル効果の実現を目指し、この応用を探る予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は、提案した多重量子ドット試料を作成し、各量子ドットの間で電子の行き来がある状態に安定して調整することができたことで、試料面で順調に進めることができたと言える。四重量子ドットと、2つの電荷検出のための量子ドット構造を作成し、これら全てでドットの形成に成功した。 また室温測定系の準備と、この信号を低温部に導入することが実現でき、今後のスピンの高周波操作・読み出しに向けた準備が順調に進んでいる。スピン操作の実験に必要な高周波には、数百MHzから20GHzまでの周波数を想定しており、この信号が試料に届いていることは簡易的に電荷状態を見ることで確認した。 また今回、従来の手法とは異なり、高速定電圧源を導入した。これまでは低速だが雑音の少ない定電圧源を使用していたが、本提案の課題ではこれらの雑音に左右されにくいスピン現象を扱う予定であり、今後の応用も見据えて高速性を優先するために導入を試みた。今のところ電子温度が従来の3倍となる結果を得ており、確度は落ちるものの提案の原理検証は可能であると考えている。 同時に、単一電荷の読み取りを高速化することで、ドットの調整を効率化した。電荷検出側では、新しく導入したRF信号源、低温アンプ、及び高周波復調器を組み込むことで、結合四重量子ドットの2次元電荷状態の図を1秒で得ることに成功している。 今後も電子温度の低減は試みるが、ここまでで、すべての電極電圧を独立に操作し量子ドットのポテンシャルが数マイクロ秒単位と桁違いに早い時間での調整を可能にしており、一般的には特殊な高周波同軸線を介して行われていた操作を、通常のドットポテンシャル形成信号線で実現していることから、多重量子ドット調整の自由度増大と測定系の簡素化を同時に実現している。
|
Strategy for Future Research Activity |
提案のスピン測定に対しては最低限の電荷検出測定を実現しているので、今後は早急にスピン測定を実現し、未知のドット領域へと調整と測定を進め、より高度なスピン操作実験へと移る。 目指す調整領域は、電荷がドットとドットの間を量子的にトンネルすることが可能なポテンシャルにおいて、高周波電場によるドット間ポテンシャルの変調を行える領域である。この領域中で、実際にスピン回転操作の速度を測定することが第一の目標である。 観測する操作速度に関わらず、測定試料のポテンシャルの調整、単一スピンの単一ショット読み出し、縦緩和時間T1の測定、単一ドット中のスピン共鳴信号とその周波数の確認などは、従来と共通の手法となるので予定通り進める。 観測する操作速度が、ポテンシャル、トンネル結合強度、周波数、磁場、電気・磁場雑音などの基本パラメーターに対してそれぞれ予想通り依存するか否かが、背景の物理を議論する上で重要となる。そのため、将来的には簡便にこれらのパラメーターを独立に制御できることが望ましく、測定系の更新も都度行っていく。 最も関心があるのは、スピンシャトルと組み合わせた際のスピン操作の優位性であるため、基本操作を実現した時点で、トンネル効果を介した空間的移動によるスピン回転が位相緩和より高速になるような上記パラメーターの調整を目指す。それとともに、トンネル効果中という実際は電子の存在しない空間でスピンに対しどのように相互作用が働くかを調べるために依存性を測定し、量子ドットの理論面での拡張と、今までにない長距離型のスピン操作法の提案へとつなげる予定である。
|
Causes of Carryover |
今年度に装置に組み込んだ物品、及び旅費を支出して発生した端数額である。今年度購入したシャーシに定電圧源のモジュールを追加する場合、30万円程度必要であり、少額ではあるが、翌年度に購入可能な物品の選択肢を広げるために利用する。
|
Research Products
(6 results)
-
-
-
-
[Journal Article] Loading a quantum-dot based "Qubyte" register2019
Author(s)
C. Volk, A. M. J. Zwerver, U. Mukhopadhyay, P. T. Eendebak, C. J. van Diepen, J. P. Dehollain, T. Hensgens, T. Fujita, C. Reichl, W. Wegscheider, L. M. K. Vandersypen
-
Journal Title
npj Quantum Information
Volume: 印刷中
Pages: 印刷中
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
-
-