2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K13491
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平井 大悟郎 東京大学, 物性研究所, 助教 (80734780)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | スピン軌道相互作用 / 多極子秩序 / 5d電子系 / ダブルペロブスカイト / 四極子秩序 / レニウム化合物 |
Outline of Annual Research Achievements |
5d遷移金属化合物はスピン軌道相互作用と電子相関の複合効果により多彩な量子相の発現が期待される。特に5d電子を1つだけもつW5+、Re6+、Os7+イオンが酸素の八面体に囲まれている場合、4重に縮退したJ=3/2という電子状態となり、多極子秩序が実現すると考えられる。本研究は、スピン軌道相互作用と電子相関の複合物性、特に多極子自由度に関連した物性の開拓を目的としている。2018年度は、まずJ=3/2状態の基礎的な知見を得るために、Re6+イオンを含む秩序型ペロブスカイト化合物の系統的な合成を行い、磁化・抵抗・比熱の基礎物性測定によってスピン軌道相互作用の効果を評価した。この結果、Ba2MgReO6をはじめとした多くの秩序型ペロブスカイト化合物が、スピンから期待されるよりもかなり小さい有効磁気モーメントを持つことが明らかになった。このことは、スピン軌道相互作用によって、スピンと軌道のモーメントの打ち消しあいが起こっていることを示している。本研究で得られた有効磁気モーメントの大きさから、スピン軌道相互作用の影響を定量的に評価できるようになった。 2018年度はさらに、四極子秩序を示す有力な候補物質であるBa2MgReO6の純良な単結晶を作製し、放射光を用いた回折実験を行った。この結果、過去の報告では観測できなかった四極子秩序の形成に伴う格子変形の観測に成功した。今後、回折データに対して精密な構造解析を行い、四極子秩序のパターンを決定する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2018年度は、八面体配位されたd1の電子数の場合に実現するJ=3/2状態の基礎的な知見を得ることを目標として、Re6+イオンを含む秩序型ペロブスカイト化合物の系統的な合成を行い、磁化・抵抗・比熱の基礎物性測定によってスピン軌道相互作用の効果を評価した。事前準備として行っていたBa2MgReO6の合成の際に得られた、出発物質の純良化や合成条件などのノウハウを利用することで、当初想定していたよりも早い段階で関連化合物の純良試料を得ることができた。このなかには、過去の報告ではスピン軌道相互作用の影響が報告されていなかった物質でも、本研究で純良な試料に対する測定を行った結果、スピン軌道相互作用の影響を確認したものもあった。また、これらの基礎物性測定の過程で、予想されていなかった特異な磁性を示す物質も見出されており、今後の展開が期待される。 Ba2MgReO6に対して行った放射光X線回折実験においても、予想を超える成果が得られている。Ba2MgReO6は磁化測定からJ=3/2状態の実現が示唆されている四極子秩序を示す有望な候補物質の1つである。しかし、過去の報告では四極子秩序にともない引き起こされるはずの構造変化は確認されていない。四極子秩序で誘起される構造変形は極めて小さいことが予想され観測は非常にチャレンジングである。2018年度に純良単結晶を使い、放射光X線回折実験を行った結果、明確に四極子秩序に付随する構造変形が観測された。これに加え、磁気秩序からの反射も観測することに成功した。このように、当初の予想を超える成果が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度に行った、系統的な秩序型ペロブスカイト化合物の合成と基礎物性評価によって、当初考えていたよりも多くの物質でJ=3/2状態が実現しており、スピン軌道相互作用が物性に影響していることが分かった。2019年度は、2018年度主に合成を行ってきたレニウム化合物からさらに対象範囲を広げて、タングステンやオスミウムを含む秩序型ペロブスカイト化合物の合成と評価を行い、5d遷移金属に対して横断的にスピン軌道相互作用の影響を明らかにする。 また、2018年度の探索の結果、特異な相転移を示すことが明らかになった化合物に対して、放射光を使った精密構造解析や中性子回折実験による磁気構造の決定を行う。 四極子秩序の観測に成功したBa2MgReO6に関しては、中性子回折実験による磁気構造の決定を行い、四極子秩序と磁気構造の関連性や相転移の微視的機構解明に取り組む。
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Causes of Carryover |
2018年度初めは、原料として業者から購入した試薬を使用していたが、水分を含んでいるため不純物相がでるという問題があった。このため、金属単体の原料から合成を行うことでより純度の高い試料が合成できるようになった。金属単体のほうがはるかに安く、当初予定していた試薬代が大幅に削減できたため繰越金が生じた。繰り越した予算は、大型の単結晶を育成用の貴金属反応容器や、物性測定用の寒剤費として使用する予定である。
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