2018 Fiscal Year Research-status Report
CDW-Mott系における非平衡状態ランドスケープの理論研究
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18K13495
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
池田 達彦 東京大学, 物性研究所, 助教 (60780583)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 電荷密度波 / 遷移金属ダイカルコゲナイド / 光誘起相転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、主として1T-TaS2の微視的モデルの構築とこれに基づいた光誘起ダイナミクスの研究を行った。 この物質は電子や格子の複雑な相互作用によって、平衡・非平衡で様々な電荷密度状態を示すことが実験的に示され、不揮発性メモリなどへの応用が期待されている。しかし、微視的理論による解明は十分に進んでいない。従来の理論は、格子変形を固定した上での強束縛模型であり、電子間の相互作用を取り入れることが出来ていなかった。 本研究ではこの理論を拡張し、格子変形を力学的自由度として取り扱い、さらに電子間のクーロン斥力を取り入れた。その結果、平均場近似の範囲内で、1T-TaS2の基底状態を定性的に再現することに成功した。この状態は絶縁体であり実験事実と整合する。これが従来の理論より進歩した点であり、より現実に近い理論的モデルが構築出来たと考えている。さらにこの理論を用いて、強いレーザー照射で引き起こされる電子・格子のダイナミクスを調べた。レーザー電場強度を十分強くすると10フェムト秒程度の短時間で電荷密度波秩序が融解すること、また長時間領域では格子変形の振動に追従して電荷密度が変動することを示した。1T-TaS2の光誘起初期ダイナミクスの理論計算はこれまでにほとんど無く、この物質の非平衡現象を解明する上で、一つの貢献になったかと思う。 本年度はいくつか関連する研究にも進展があった。1T-TaS2に関して、次年度以降に着手する予定だった現象論のアプローチについても、自由エネルギーの計算プログラムが構築出来た。また、光誘起ダイナミクスに関して、誘起される電流から生じる高次高調波についても強束縛模型による解析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、光誘起初期ダイナミクスに関して、時間依存Hartree-Fock法を実装して相互作用の効果を取り入れた計算を実行することが出来た。期待以上の成果としては、相互作用の効果を取り入れたことで、絶縁体的振る舞いをする基底状態を実現することも出来た。これまで知られていた1T-TaS2の強束縛模型は実験事実と異なり金属的になっていたが、これを一歩進めてより実験と整合するモデルが構築出来た。 また当初は次年度以降に取り組む予定だった、1T-TaS2の現象論的アプローチについて、前倒しで取り組む事ができた。自由エネルギーの計算プログラムの構築が済み、いくつかの計算結果も出始めており、当初の計画以上に進んでいると言える。 当初の計画では固体高次高調波発生との関連は想定外であったが、この物質の光誘起ダイナミクスとの関連が深いことが分かってきた。当初予定していなかったこの方向性についても一定の成果が出ている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は1T-TaS2の現象論的アプローチの研究を推進する。構築した自由エネルギーの計算プログラムを使って、状態空間中の自由エネルギーランドスケープを探索する。平衡状態では実現しない準安定状態の情報を得るのが狙いである。 また固体高次高調波発生の研究も進め、遷移金属ダイカルコゲナイド系あるいは電荷密度波状態との関わりが明らかに出来ればと考えている。
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