2018 Fiscal Year Research-status Report
Theory of spin dynamics induced by temperature gradient
Project/Area Number |
18K13508
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
下出 敦夫 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (20747860)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | スピントロニクス |
Outline of Annual Research Achievements |
多極子は物質中の電磁気学における概念であり,電荷・電流密度に位置をかけて積分することで定義された.ところが結晶では単位構造が周期的に並ぶため,多極子はよく定義されない.本研究では電気磁気(ME)効果の微視的起源であると信じられてきた磁気四極子(MQM)に着目し,その定式化に取り組んだ. 【軌道MQM】磁場勾配を用いてMQMを熱力学的に定義し,Maxwellの関係式からMQMとME感受率を結びつける関係式を得た.これはMQMがME効果の微視的起源であることを示すものである.軌道MQM・ME感受率の公式を得,反強磁性体BaMn2As2やCeMn2Ge2に適用した.後者ではME感受率に対する軌道の寄与がスピンの寄与に比べて10倍以上大きくなることを見出した. 【スピンMQM】スピンMQMは電気分極のスピン版と見なすことができる.断熱変形に伴うスピン流密度を計算することでスピンMQMが定義されたが,得られた公式は波動関数の位相の選び方に依存していた.一方,上述の熱力学的定義では位相の選び方に依存しない公式が得られる.この矛盾を解決するため,非一様な系でスピン密度を計算する第三の定義を提案し,位相の選び方に依存しない熱力学的公式と一致する結果を得た.矛盾の原因は,一般にスピン軌道相互作用がある場合,よく使われるスピン流密度に加えトルク双極子を考慮する必要があったためである. またスピンMQMは,温度勾配によって磁化が誘起される現象(重力ME効果と呼ぶことにする)において重要な役割を果たす.Kubo公式を用いると重力ME感受率は絶対零度で発散することが知られている.スピンMQMを差し引くことで,重力ME感受率は絶対零度で0になり,Mottの関係式によってME感受率と結びつけられることを示した.Rashba強磁性体に得られた公式を適用し,磁化が実験的に観測されうることを見出した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
MQMに関する論文を2件出版した.なかでもスピンMQMに関する論文では,温度勾配によってスピンが誘起される重力ME効果におけるスピンMQMの必要性を明らかにした.これは古くから研究されてきた多極子を本研究課題である「温度勾配によって誘起されるスピンのダイナミクス」と関連づけ,それぞれの研究を深めるものである.研究計画に挙げたスピンNernst効果に関する進展はなかったが,当初予期していなかった成果を得ることができたので,おおむね順調に進展しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
上述の重力ME効果は,電子系の絶縁体ではMottの関係式が成り立つので起こらない.一方,低エネルギー励起がマグノンで記述される磁性絶縁体で起こるかどうかは自明ではない.反強磁性体Cr2O3などの具体的な物質の微視的模型から,磁性絶縁体において重力ME効果が起こるのか,起こるとすればそのスピン磁化は実験で測定できる程度であるのか,より巨大なスピン磁化を示す物質はあるのかを明らかにする. 研究計画に挙げたスピンNernst効果については,最近のスピンHall効果の理論を踏まえて軌道修正する.最近TataraはスピンHall効果によるスピン蓄積に着目し,電場によって誘起されるスピン密度を計算することを提案した.これは研究計画で述べたスピン流の非保存という困難を回避できる画期的な提案であり,スピンNernst効果についても温度勾配によって誘起されるスピン密度を計算すればよいことを示唆する.温度勾配特有の補正の物理的な意味を明らかにし,スピンNernst効果の微視的理論を構築する.
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Causes of Carryover |
家庭の事情により当初予定していたほど成果発表のための出張をすることができなかったため,次年度使用額が生じた.次年度はより多く成果発表を行う.
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