2018 Fiscal Year Research-status Report
Kinetic approach to metastable superconductivity
Project/Area Number |
18K13512
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大池 広志 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (70725283)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 超伝導 / 急冷 / 強相関電子系 / 準安定 / 非平衡 / メモリ機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
急冷を用いて準安定状態として超伝導を生成するという、動力学に基づいた超伝導探索指針を実証するために、まずは急冷法の開発を行った。薄片試料を基板(シリコンまたはプラスチック)に乗せ、電気パルスの印加により試料を急加熱すると、パルス終了直後に起こる試料から基板への熱拡散によって、10の7乗K/secにも及ぶ冷却速度が実現された。 次に、開発した急冷法を用いて、遷移金属カルコゲナイドIrTe2の急冷実験を実施した。徐冷下では超伝導状態にならないIrTe2試料に対して急冷を適用すると、準安定状態として超伝導状態が生成され、その準安定超伝導状態が1週間以上安定に持続することを示した。このように、冷却速度をパラメータとして常伝導と超伝導の生成を制御することで、本研究課題で提唱した超伝導探索指針を実証した(論文出版済み)。さらに、電気パルスの条件を調整することにより、急冷法によって生成した準安定状態を電気パルスによって消去できることを示し、電気パルスによる不揮発かつ双方向の超伝導-常伝導の変換という機能創出に成功した。 また、複数のIrTe2試料に対して急冷実験を行うことで、試料の大きさを小さくするほど、超伝導と競合する秩序の形成に必要な冷却速度が低くなることを見出した(論文出版済み)。この結果は、試料の大きさが超伝導の生成に関わる相転移現象の動力学を制御するパラメータであることを意味している。最近では、本研究課題で示した超伝導生成法をスズ系合金試料に適用し、同様の原理で準安定超伝導状態を生成することに成功した。このように、動力学に基づいて物性を制御するための手法、超伝導生成法を適用できる物質系という2つの側面で、本研究課題で示された超伝導探索指針の波及効果が示されつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
計画立案時は、電気パルスによる急冷法をIrTe2に適用し、準安定超伝導状態を生成することを目標としていた。これに対し、1年目の研究において電気パルスによる準安定超伝導状態の消去を実現し、電気パルスによる不揮発かつ双方向の超伝導-常伝導の変換という機能創出に成功した。また、冷却速度だけでなく、試料の大きさが動力学に基づいて物性を制御する際のパラメータであることを明らかにした。さらに、本研究課題で提唱した超伝導探索指針が、IrTe2以外の物質系にも適用できることを示した。以上のように、機能創出、実験手法の拡張、他の物質系への展開という点で、計画以上の進展があったと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
IrTe2において急冷による準安定な電子状態の生成し、その電子状態が超伝導転移をすることを示したが、この現象は非自明な問題を含んでいる。準安定な電子状態を形成は、電子のダイナミクスが凍結し、最安定状態へと変化できないことを意味している。その一方で、超伝導転移を示すということは、電子のダイナミクスが凍結しておらず、秩序状態を形成する自由度が残されていることを意味している。このような一見矛盾するような電子の振る舞いの起源を解明するために、今後は光学応答の測定により局所的な格子振動や結晶の対称性を調べ、急冷下の電子状態をミクロな視点から明らかにする。
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Causes of Carryover |
年度末の日本物理学会への参加費を別予算から支払うことができたため、差引額で次年度の実験の効率を上げるための計測機器を購入することを計画した。
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