2019 Fiscal Year Research-status Report
場の3D大変形と反応拡散が織りなす新奇の自己組織化現象:マクロ飲作用を題材として
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18K13514
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
斉藤 稔 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (20726236)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 自己組織化現象 / ソフトマター / フェイズフィールド法 / マクロピノサイトーシス / エンドサイトーシス / 反応拡散 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度では、細胞膜と膜上のシグナル因子の反応拡散現象を考慮した数理モデルを開発し、マクロ飲作用におけるカップ状の膜の隆起形成、およびカップの閉口による細胞外溶液取り込みのシミュレーションを実現した。今年度は、どのようなパラメータがカップ形成・閉口に影響を与えるか詳細に解析を行った。解析の結果、重要な物理パラメータの一つは膜伸長を駆動するアクチン重合による面積あたりの力と膜張力の比(F/eta)であり、この比がある臨界値を下回ると膜が突出できなくなることを示した。またカップのサイズを規定するシグナル因子の総量と上記のF/etaのパラメータを網羅的に解析し、効率的に飲み込みを行えるパラメータ条件を求めた。F/etaが臨界値付近では、カップ形成が膜状の同じ場所で複数回起こる現象が観察され、実際の細胞性粘菌で観察される挙動との一致が見られた。またPIP3, Rac1, active-Rasなどのシグナル因子の挙動を記述した化学反応モデルに抑制因子を新たに導入した結果、細胞性粘菌で観測されるカップ構造の分裂などがシミュレーション上で再現できた。この抑制因子はRasGapの抑制因子やCoroninなどに対応すると考えられる。 以上のように細胞性粘菌で見られるマクロ飲作用の形態ダイナミクスのほぼ全てをシミュレーションで表現することが可能になった。本研究で提案したマクロ飲作用のメカニズムでは、(i)双安定系の反応拡散過程による局在パッチの形成と、(ii)パッチの縁付近のみでの膜伸長、の二つの単純な仮定のみから一見複雑なマクロ飲作用が自己組織化する。このメカニズムはクラスリン依存的なエンドサイトーシス等の既知の現象とは全く異なるものであり、新奇の形態形成機構であると言える。 また凹凸のある基質上での細胞運動も上記の数理モデルから説明できることが示唆され、詳しい解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していたマクロ飲作用現象の理論的基盤の確立は達成し、細胞性粘菌で見られるマクロ飲作用については定性的に理解できるモデルを構築できた。
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Strategy for Future Research Activity |
基礎理論の構築はほぼ完了し、定性的には実験で観測されているマクロ飲作用の振る舞いをシミュレーションにより再現できた。しかしシミュレーションと実験を定量的に比較することが困難となっている。これは三次元の形を定量化する一般的な処方箋が存在しないことに起因するが、今後はこの問題を解決できないか検討する。二次元的な細胞形状については、機械学習を用いた細胞形状の定量化に成功しつつある。 また解析の結果、凹凸のある基質上での細胞運動も提案モデルから説明できることが示された。この事実から、マクロ飲作用と細胞遊走がどのような関係にあるか研究を進める予定である。細胞性粘菌を用いた先行研究では、マクロ飲作用は走化性を妨害しうるという結果が示されているが、理論的側面からこう言った関係を明らかにできないか検討する予定である。
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Causes of Carryover |
当該年度は国際学会に参加しなかったため、旅費等の分だけ次年度使用額が生じた。次年度はコロナ問題により海外渡航は困難であると考えられるため、その分国内学会旅費にあてるか、リモートワークのための環境整備(ヘッドセット、モニター等)の費用に充てる予定である。
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Research Products
(6 results)