2019 Fiscal Year Research-status Report
1次元リボン状氷の構造と物性:楕円筒形カーボンナノチューブを用いた研究
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18K13518
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
客野 遥 神奈川大学, 工学部, 准教授 (10746788)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 水のナノサイエンス / カーボンナノチューブ / ナノ氷 / プロトン輸送 / 誘電体 |
Outline of Annual Research Achievements |
制限された空間に閉じ込められた水は、バルクとは異なる振る舞いを示す。これまで研究代表者らは、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の有する1次元円筒空洞に内包された水の物性を明らかにしてきた。本研究ではその研究のノウハウを活かし、一軸方向の外部圧力により変形させたSWCNTに水を内包させ、その物性を調べることを目的とする。昨年度の研究では、一軸方向の外力によって変形させたSWCNTについて、内包水分子の構造と相転移挙動がSWCNTの変形量によって著しく変化することを古典分子動力学(MD)計算によって示した。とくに、じゅうぶんに変形させて扁平化したSWCNTについて、内包水がこれまでにない新しい氷結晶(扁平なリボン状の氷)を形成することを示した(H. Kyakuno et al., J. Phys. Chem. C, 2018)。 本年度は、反応力場を用いたMD計算により、一軸圧で変形したSWCNTに内包された水のプロトン輸送度を調べた。直径1.24nmのSWCNTを用いた計算の結果、内包水のプロトン輸送度はSWCNT変形量によって著しく変化することが示された。さらに、じゅうぶんに変形した扁平化SWCNTに内包されたリボン状氷では、ある任意の内包水密度において著しくプロトン輸送度が上昇することを見出した。プロトンは主にリボン状氷のエッジをホッピング拡散し、室温でバルク水より速い拡散をする。以上の結果は、SWCNTの変形あるいは内包水の密度によってプロトン輸送度が制御可能であることを示唆するものである(論文投稿準備中)。MD計算による予測を実証するため、高圧実験も現在進行中である。ダイヤモンドアンビル・セルを用いてSWCNT試料に一軸圧を印加し、試料の構造変化をX線回折(XRD)実験やラマン散乱実験によって調べている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度(2年目)の研究は当初の計画に沿って行われ、おおむね期待通りに進展した。このように判断する理由を以下に述べる。 【理由1】当初の計画・研究目的に基づいて変形SWCNT内包水のMD計算を行い、内包水が特異なプロトン輸送特性を示すことを見出した。すなわち、変形SWCNT内包水のプロトン輸送度は、SWCNTの変形量あるいは内包水の密度によって制御可能であることが示された。とくに、じゅうぶんに変形した扁平化SWCNTに内包されたリボン状氷では、ある任意の内包水密度において著しくプロトン輸送度が上昇することが見出された。これらの結果は、プロトン伝導を利用したデバイスなど、応用の観点からも興味深い。以上の研究成果は、現在、論文投稿準備中である。 【理由2】プロトン輸送特性を調べるMD計算において当初の予想を上回る興味深い結果が得られたため、さまざまに条件を変えた計算やその解析に大幅に時間を費やしてしまった。そのため、SWCNT試料の高圧実験は当初の計画よりやや遅れている。現在、前述のMD計算結果を検証するための実験に急ピッチで取り組んでいる。ダイヤモンドアンビル・セルを用いて一軸性の圧力をSWCNT試料に印加し、その構造変化をXRD実験やラマン散乱実験によって調べている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も、当初の研究計画に基づいて研究を推進する。とくに、これまでに得られたMD計算結果の実証実験を集中的に行う。高圧XRD実験、高圧ラマン散乱実験などを行い、変形SWCNTに内包された水の構造と相転移挙動を明らかにする。直径が異なる数種類のSWCNT試料を準備し、SWCNTの直径、変形量、温度によって、内包水の構造と相転移挙動がどのように変化するかを調べる。実験結果は、昨年度と今年度に行ったMD計算結果と比較して議論する。内包水のダイナミクスを実験によって検証するために、高圧NMR測定も行う。また電気抵抗測定により、水を内包した変形SWCNTの電気的特性を調べる。
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Causes of Carryover |
【理由】当初の計画では、高圧実験用の消耗品(圧力セル部品、SWCNT原料、SWCNT精製用薬品など)を研究1、2年目に主に購入する予定であった。しかし、MD計算による内包水の構造予測やプロトン輸送特性の計算で予想以上に興味深い結果が得られたため、さまざまに条件を変えた計算やその解析に大幅に時間を費やしてしまった。これにより高圧実験に遅れが生じ、圧力セル用アンビルや多種類のSWCNT試料を購入して、さまざまな条件で実験を行うには至れなかった。 【使用計画】実験を行う圧力範囲に対応する複数種類の圧力セル用アンビルを購入し、高圧XRD実験と高圧ラマン散乱実験を行う。内包水物性のSWCNT直径依存性を調べるために、さまざまな種類のSWCNT原料を購入する。精製用薬品を購入し、SWCNT原料には精製処理を施す。また、論文投稿費や国内旅費(学会発表や学外研究機関でXRD実験を行うための旅費)としても使用する計画である。
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