2019 Fiscal Year Research-status Report
変分原理により解き明かす、キラル液晶の回転駆動と動的散逸構造
Project/Area Number |
18K13520
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
吉岡 潤 立命館大学, 理工学部, 助教 (50708542)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 液晶 / 非平衡 / 散逸構造 / 変分原理 |
Outline of Annual Research Achievements |
液晶によって形成される滴(液晶滴)が液体溶媒中に分散した系において、温度勾配や電場を与えたときに生じる非平衡現象を対象とした研究を行っている。観測される現象に対して近年提案されたオンサーガーの変分原理を適用し、その機構を解明することを試みる。さらにこの過程を通して上記変分原理の妥当性、有用性を検証し、その効果的な運用法を模索することを目的としている。 2019年度は主に、コレステリック液晶が形成する滴(Ch液晶滴)をサンドイッチセルに封入した系において、セル基板水平方向に温度勾配を印加したときに誘起される非線形現象を解析した。流動場測定、および偏光顕微鏡観察の結果、温度勾配下においては滴内部に対流が発生し、これに起因してCh液晶滴内部の配向場(液晶分子が並んでいる方向の空間分布)が、平衡状態から変形することが判明した。ここで、温度勾配、および滴サイズが十分に大きければ、配向場が周期的な変形を繰り返す自励振動が誘起された。この現象の機構を解明すべく、系に対して単純化したモデルを設計し、オンサーガーの変分原理を適用して現象の機構を記述することを試みた。その結果、上記の自励振動は対流によって駆動されており、その機構は粘性力、および配向弾性力によって引き起こされる配向場の変形が、フラストレーションを起こしつつ周期的に繰り返すことに起因していることが分かった。以上の結果は論文としてまとめられ、Journal of Physics: Condensed Matter誌に掲載受理済である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、コレステリック液晶によって形成される滴(Ch液晶滴)に、温度勾配や電場を印加した際に生じる回転運動を解析する予定であった。しかしながら、配向場が複雑であること、また内部流動の一切が不明であることから、これに取りかかる前により構造が単純な液晶滴における非平衡現象を解析することで、液晶滴のダイナミクスに関する基本的な知見を収集する必要があると考えた。そこで2018年度はネマチック(N液晶滴)に、2019年度はCh液晶滴に着目し、これらに温度勾配を印加したときに配向場が変形する現象を解析した。その結果、実験結果はこの解析によってよく説明されることが示された(実績概要参照)。この成果は、少なくともこの現象に対する上記変分原理の妥当性、有用性を実証するものであり、本研究目的と合致するものである。これに加えて、上記の系を解析することで、温度勾配下の液晶滴にマランゴニ対流が誘起されていることが実験的に実証されたこと、さらにはこの対流によって自励振動という動的な現象が引き起こされることが証明されたことは、大きな進歩である。これらより、対流が温度勾配印加時のCh液晶滴における回転現象の駆動源になっていると予測され、今後は対流の存在を前提に実験解析やモデル化を展開していくことができる。以上より、当初の予定から変更はあったものの、研究は順調に進行していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、2018および2019年度に解析したN,Ch液晶滴における非平衡現象に関する知見をもとに、温度勾配下のCh液晶滴の回転現象を解析する。先行研究において、セル基板垂直方向に温度勾配を印加するとCh液晶滴に回転運動が誘起されることが示されているが、2018,2019年度の研究で得られた知見と組み合わせると、回転は温度勾配下で滴内部に発生するマランゴニ対流によって引き起こされているものと推測される。この推測に基づいて、現象のモデル化を行い、オンサーガーの変分原理を適用して回転の機構を解明することを目的とする。同時に、偏光、共焦点顕微鏡観察、および蛍光退色法を用いて内部配向場、流動場を実験的に解析し、理論と整合するかどうかを検証する。 上記に加えて、電場印加時のCh液晶滴において誘起される回転現象を解析する。この現象に対しても、上記と同様の手法で配向場、流動場の解析を行い、これらを実験的に明らかにする。実際に2019年度の研究で、Ch液晶滴に対してセル基板水平方向に直流電場を印加すると、温度勾配印加時と同様に対流が発生し、配向場が変形することが既に実験により確かめられている。これら電場印加時の非線形現象に対しても、オンサーガーの変分原理を用いてその機構を説明することを試みる。
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Causes of Carryover |
大学の業務の都合や、コロナウイルスの感染拡大に伴う学会の開催中止によって、当初は予定に入れていた学会に何件か参加することができなかった。これらのための費用が使用されなかったことが、次年度使用額が生じた主要な理由である。 これらの費用は、新たな試薬の購入や、実験装置改良のための部品購入に充てる予定である。
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Research Products
(4 results)