2018 Fiscal Year Research-status Report
量子開放系理論に基づくクォーク・グルーオン・プラズマ中の力の統一的記述
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18K13538
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
赤松 幸尚 大阪大学, 理学研究科, 助教 (30616363)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | クォーク・グルーオン・プラズマ / クォーコニウム / 量子開放系 / 量子散逸 / Lindblad形式 |
Outline of Annual Research Achievements |
クォーク・グルーオン・プラズマとは、日常世界では核子や中間子の中に閉じ込められているクォークやグルーオンが、超高温の環境下で解放されているプラズマ状態のことである。クォーク・グルーオン・プラズマ中で働く力は、真空中とは全く異なり、遮蔽や散逸など、様々な熱的効果を受ける。本研究の目的は、クォーコニウム(重クォーク対の束縛状態)を通じて、プラズマ中で働く力に対する熱的効果を統一的に理解することである。 2018年度はそのための最初のステップとして、重クォーク系をクォーク・グルーオン・プラズマ中の量子開放系として扱うことにより、これらの力を統一的に記述する手法の開発に取り組んだ。具体的には、Lindblad形式の量子マスター方程式を非線形確率論的シュレーディンガー方程式として解く数値アルゴリズムの開発を行った。 最初に計算の正しさを確かめるために、クォーク・グルーオン・プラズマ中の重クォーク1体に対して1次元の数値計算を行った。量子散逸が熱ゆらぎと釣り合うことにより、長時間極限で重クォークの運動量がマクスウェル・ボルツマン分布に従うことを確認した。当初、量子散逸の効果は平衡に達する長時間極限でのみ重要と考えていたが、初期の重クォーク波動関数が局在している場合には、早い段階から量子散逸が効いてくることが明らかになった。これは、相対論的重イオン衝突のような有限時間しか存在しない系においても量子散逸が重要になり得ることを示唆している。重クォーク対の2体系の場合に数値計算を行ったところ、重心運動と相対運動の結合により、束縛状態の存在確率が重心運動量を上げると減少することが分かった。 また、これらの他にクォーク物質に存在すると予想される臨界点のゆらぎに対して、膨張する非平衡環境で成立するスケーリング則を適用し、相対論的重イオン衝突での臨界点のシグナルの強さや波長スケールを見積もる研究も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
重クォーク系をクォーク・グルーオン・プラズマ中の量子開放系として扱うために、非線形確率論的シュレーディンガー方程式を解く数値アルゴリズムの開発を行い、1次元の数値計算に適用した。計算結果は物理的にも望ましい振る舞いを示し、量子散逸の数値計算が可能になったと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
1次元での数値計算に成功したので、今後は2次元、3次元への拡張を行っていく。まずアルゴリズムの2次元への拡張を行い、計算時間の次元やサイズに対する依存性を見積もり、省略可能な部分を選別する。3次元計算は大型の共同利用計算機が必要になると予想されるので、必要な計算時間の定量的評価を進めたい。また、相対論的重イオン衝突のクォーコニウム抑制の現象論に対する定性的な主張は1次元計算でも可能であり、そのような計算を実行し論文にまとめる。
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Causes of Carryover |
今年度は長期出張を控える必要性が生じたため、検討していた海外出張を一件減らした。代わりにビジターを迎え入れ、その旅費を負担したが差額が出た。次年度は既に得られた結果を発表するために、積極的に発表を行いたい。
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