2021 Fiscal Year Research-status Report

グラディエントフロー方程式を用いた場の理論の新しい解析手法の発展

Research Project

Project/Area Number	18K13546
Research Institution	Institute of Physical and Chemical Research
Principal Investigator	菊地健吾国立研究開発法人理化学研究所, 数理創造プログラム, 基礎科学特別研究員 (20792724)
Project Period (FY)	2018-04-01 – 2023-03-31
Keywords	素粒子論 / 場の量子論 / グラディエントフロー / 超対称性理論 / 自発的対称性の破れ
Outline of Annual Research Achievements	本研究の目的は、グラディエントフローの方法を用いて新しい場の理論の解析手法を確立させることである。グラディエントフロー方程式は一種の拡散方程式で、その解で与えられる新しいゲージ場の相関関数は、新たな繰り込みを必要とせず、紫外発散が出ないという性質を持つ。この有限性の性質を使って、格子理論を中心に広く研究が行われている。本年度は、大きく分けて二つのテーマに関して研究を遂行した。一つは、超対称性グラディエントフローの解析、もう一つは自発的対称性の破れに関するグラディエントフローである。 SU(N)Yang-Mills理論において提唱されたグラディエントフローの方法は、紫外有限であるという性質に、ゲージ対称性が重要な役割を果たしており、ゲージ化されていない理論に対してはこの性質は自明ではない。超対称性グラディエントフローに関する本研究では、グラディエントフローの手法を超対称Wess-Zumino模型に適用し、繰り込み不変なパラメータだけを持つように変数変換を行いフロー方程式を構成することで、相互作用を含む超対称性フロー理論が紫外有限になることを、非繰り込み定理の性質を使って全次数で証明した。この模型では、ゲージ理論とはまったく異なるメカニズムによって紫外有限となっており、ゲージ対称性が無い理論でもグラディエントフローが働く１つの例になっている。自発的対称性の破れに関するグラディエントフローの研究とは、U(1)Higgs模型に対してグラディエントフローを適用し、その相構造をフロー理論で解析する試みである。まずは対称性がある相で紫外有限性があるか判定し、次にHiggs相においてフロー方程式を構成、解析する。紫外有限性の性質を持ったフロー場によるオーダーパラメータを調べることで、理論の相構造を調べる方法として確立できると期待される。
Current Status of Research Progress	Current Status of Research Progress 2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned. Reason 本研究の最終目標である、グラディエントフローの方法を用いて新しい場の理論の解析手法を確立させることに関し、本年度は超対称性グラディエンフローを Wess-Zumino模型に対して適用し、相互作用を含むグラディエントフローを構成、その有限性について議論した。更に本年度は超場での超ファインマンルールを構成し解析することで、紫外有限性の証明をより正確な議論で行い、この結果を現在論文としてまとめている。自発的対称性の破れに関する議論においては、本年度は最初のステップとして、対称性がある相に関して方程式を構成、具体的に相関関数を計算し、解析を継続中である。昨今のコロナウイルス関連による議論の延期、オンライン化などの要因により、部分的にはやや予定よりは遅れているが、このように新しい分野にも幅広くアプローチしており、研究はおおむね順調な結果が得られていると言える。
Strategy for Future Research Activity	今後の研究ではまず第一に、現在までわかっている超対称性グラディエントフローに関する研究に関し、相互作用も含めたフローの有限性について研究成果を超場形式で解析した結果を論文にまとめ発表する。この研究ではさらに拡張された超対称性理論への応用、超対称性の破れに関する議論など発展が見込まれる。この点に関し引き続き解析を進める。また、自発的対称性の破れへのグラディエントフローの適用として、U(1)ヒッグス模型に関するグラディエントフローの研究を進めているが、本年度は最初のステップとして対称性がある相に関して解析を行なっているが、更に今後はHiggs相に関して研究を行う。この研究が上手くいった先には、標準模型に関してフローの研究を拡げたい。このようにグラディエントフローを用いた新たな場の理論の解析として、さらなる研究発展が期待される。
Causes of Carryover	本年度予定していた研究議論、及び発表のための旅費に関して、研究の進展状況及びコロナウイルスに関する社会的情勢から、次年度の議論、打ち合わせ、発表に当てるのが適当であると判断したため。研究議論と発表のための出張費に使用予定。