2018 Fiscal Year Research-status Report
物質と重力のダイナミクスに基づく蒸発するブラックホールの場の理論的定式化
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18K13550
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
横倉 祐貴 国立研究開発法人理化学研究所, 数理創造プログラム, 上級研究員 (50775616)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ブラックホール / 半古典的アインシュタイン方程式 / 量子重力 / 量子多体系 / 対称性 |
Outline of Annual Research Achievements |
1)シュワルツシルトブラックホール真空解に対して、量子効果がどの程度変更を与えるのかを一般的に調べた。具体的には、conformal matterを考え、4次元Weylアノマリーの効果を取り入れ、シュワルツシルト解に対する摂動解を構成した。すると、シュワルツシルト半径近傍の構造は、境界条件に大きく依存し、ホライズンを構成するにはfine tuningが必要であることがわかった。これは、typicalな球対称静的解はホライズンを持たないことを示しており、いかにホライズンが特異なものであるかを表している。 2)ブラックホールも究極的には一種の量子多体系だと考えられる。そこで、2つ目の手法では、時間依存した外場中の量子多体系を考え、そのユニタリー時間発展を記述する新しい経路積分表示を開発した。それは熱力学的状態空間における経路積分であり、そこにはエントロピーとそれに正準共役な運動量の有効作用が現れる。外場の時間変化が遅い場合、その経路積分にその運動量の並進対称性が現れ、量子論レベルでエントロピー保存則が得られる。この対称性はネーター保存量としてのブラックホールエントロピーを導く対称性と同じ形をしている。 3)我々がこれまで構成してきた、蒸発するブラックホールのself-consistentなモデルに基づくものである。そのモデルは、球対称崩壊物質は、ホライズンも特異点も持たない高密度なコンパクトな星なり、蒸発することを示している。本年度は、多数の球対称シェルの時間発展を、WKB近似とS波近似を使って半古典的アインシュタイン方程式を解き、実際にそのような星に近づいていくことを示した。これは、時間依存した重力崩壊過程を、蒸発のback reactionも含めて、定量的に解析したものであり、これまでに得られた内部解をより確かなものにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
量子力学におけるブラックホールの正体、その内部の解明に対し、上記の本年度の3つの成果は相補的で今後の研究に対し効果的なものだと期待できる。 1つ目の「シュワルツシルト解からの摂動的球対称静的時空のシュワルツシルト半径近傍の構造が一般に量子効果に大きく依存する」は、重力崩壊からの形成過程は考慮されていないが、数学的にかなり一般的な解析になっている。その意味で、今後の研究を進める際の、1つの基準になりうる成果である。しかも、この研究は当初は予定していなかった海外研究者との共同研究であり、それがこのような普遍的な結果を導けたのは研究課題に大きく貢献していると言える。 2つ目の熱力学的経路積分の定式化は、以前はthermal pure stateを用いたものだったが、今回はマイクロカノニカル的なエネルギーシェルへのprojected stateを利用した。そのおかげで、定式化はとてもシンプルになり、かつ、位相部分が適切な形になった。そして、仮定も明確になったため、数値的実験もしやすくなった。この定式化は、今後、具体的な物性系への応用のみならず、ブラックホールの量子モデルの研究にも活用できると期待できる。 3つ目の成果では、これまで定常状態に近い状態の計量だけが得られていたのに対し、完全に時間に依存した計量の解析を実行できた。このおかげで、どのように量子的ブラックホールが形成され、そしてそれがどれくらい時間的に安定なのかがわかった。この成果は未だに論文としてまとまっていないが、最も直接的に蒸発するブラックホールを理解するのに貢献する成果だと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
1)蒸発するブラックホールに入った物体を、massless scalar場のs波の励起状態として扱い、その時間発展をWKB近似で解析する。それにより、leadingの振る舞いではどのように、蒸発と共に情報が戻ってくるのかを理解したい。また、同じ枠組みでブラックホールエントロピーを微視的に数え上げる。 2)熱浴中の定常ブラックホールは1つの幾何学的配位だけで有限のエントロピーが得られる。では、幾何学的に熱力学第二法則はどれくらい満たされているだろうか?重要な点は、エントロピー生成が時々刻々と正でなければならないことである。この性質を満たす新しい“ホライズン”の定式化を行い、この幾何学的エントロピーの性質を明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
予定していた海外研究機関への滞在を、この課題の研究進行度合いと受け入れ側の予定が合わなかったために、来年度に見送った。その海外出張費用に充てる予定である。
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Research Products
(10 results)