2021 Fiscal Year Research-status Report
物質と重力のダイナミクスに基づく蒸発するブラックホールの場の理論的定式化
Project/Area Number |
18K13550
|
Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
横倉 祐貴 国立研究開発法人理化学研究所, 数理創造プログラム, 上級研究員 (50775616)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | ブラックホール / 量子重力 / 半古典的アインシュタイン方程式 / 高階微分相互作用 / 低エネルギー有効理論 / 情報問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
ブラックホールの情報問題において、物質の初期情報がホーキング輻射にどのようにして移されるのかを明らかにすることは本質的である。その1つの可能性が物質場の相互作用の効果によるものであるが、繰り込み可能なものはO(1)の効果を生まないことが知られている。一方で、情報回復には従来の場の理論を超えた物理が関与することが予想される。そこで、薄い球殻が重力崩壊してホライズンを持つ古典ブラックホールが形成される時間依存した時空において、繰り込み不可能な相互作用の効果を調べた。その結果、それは遠くにいる観測者に対してはrelevantになり、自由落下する観測者に対してはirrelevantのままであることがわかった。ポイントは、この時空上では各観測者の時間の生成子であるHamiltonianが非可換であることだ。そのせいで、2人の時間発展の記述の仕方に不確定性が生じ、片方の観測者にとって“良い波束状態”はもう片方にとっては“良い波束状態”にならず、S行列の振る舞いが両者で異なる。いま、球殻が重力崩壊し、ホライズンが形成しようとしている過程を考える(蒸発の効果は考えない)。球殻がシュワルツシルト半径からプランク固有長だけ離れたところまで近づくと、遠くの観測者にとっての外向きの粒子が、球殻付近の真空または投入した落下する粒子から、繰り込み不可能な相互作用を通して生成される過程のS行列がO(1)になる。一方で、この粒子状態は自由落下する人にとっては良い波束ではないので、同じ過程において、その人は粒子を観測しない。このようにシュワルツシルト半径近くでは繰り込み不可能な相互作用がrelevantになり、落下する物体の情報が(ホーキング輻射に紛れて)生成された粒子と共に戻ってくるかもしれない。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今回の成果は蒸発の効果を無視してはいるが、ブラックホールの有効理論的記述の必要性を場の理論立場から具体的に示している。よって、この成果は「蒸発するブラックホール=ホライズンを持たない高密度物体」という描像を実現する有効場理論の正体を理解するのに役立つはずだろう。
|
Strategy for Future Research Activity |
重力場の有効理論における高階曲率がブラックホール内部の構造に与える効果を調べてみたい。
|
Causes of Carryover |
理由:コロナ禍により、予定していた海外出張等が中止になったため。 使用計画:今年度は海外出張が可能だと期待でき、また共同研究者と対面での議論を試みる。
|
Research Products
(10 results)