2018 Fiscal Year Research-status Report
変分法による超新星爆発計算用核物質状態方程式のラムダハイペロン混合系への拡張
Project/Area Number |
18K13551
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
富樫 甫 九州大学, 理学研究院, 学術研究員 (70733939)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 一様核物質 / 状態方程式 / ハイペロン / 超新星爆発 / 中性子星 / 変分法 |
Outline of Annual Research Achievements |
従来のクラスター変分法を拡張し、絶対零度及び有限温度におけるラムダハイペロン混合を考慮した一様核物質(ラムダハイペロン物質)の状態方程式(EOS)を構築する研究を遂行した。 2018年度はまず、有限温度ラムダハイペロン物質に対するクラスター変分法を用いた自由エネルギーの計算手法を定式化し、様々な温度、密度、粒子混在度におけるラムダハイペロン物質の自由エネルギー及び関連する熱力学量を求めた。この際、核子間相互作用は2体核力AV18と3対核力UIXを採用し、ラムダ粒子に関する2体相互作用は、ハイパー核に対する少数多体精密計算が実験値を再現するように決定された中心力ポテンシャルを用いて計算を行った。その結果、得られた熱力学量は妥当な振る舞いを示し、核子のみで構成された従来の有限温度核物質EOSと自己無矛盾なラムダハイペロン物質のEOSを構築することが可能になった。 しかしながら、これまでの研究と同様に、得られたEOSを中性子星の構造計算に適用した場合には、ハイペロン混合によるEOSの軟化によって太陽質量の約2倍の質量を持つ重い中性子星の存在を説明することができない。そこで、2018年度はさらに、3体核力UIXに含まれる状態依存性のない3体斥力項を拡張した3体バリオン力を導入して、それらが中性子星構造に与える影響を調べた。その結果、1つのラムダ粒子と2核子の間に働く3体バリオン力は、高密度天体内部におけるラムダ粒子の混合臨界密度に大きく影響する一方で、2つのラムダ粒子と1核子の間に働く3体力及び3つのラムダ粒子間に働く3体力は、ラムダ粒子の混合臨界密度にはほとんど影響しないが、中性子星の最大質量には少なからず影響することがわかった。そのため、重い中性子星の構造を議論する際には、これらの3体バリオン力から生じる寄与まで考慮することが必要となる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
絶対零度及び有限温度における一様ラムダハイペロン物質に対するクラスター変分法の拡張が順調に行われ、様々な温度、密度、粒子混在度におけるラムダハイペロン物質の自由エネルギーを求める数値計算プログラムの作成も完了した。さらに、ハイペロン3体力の取り扱いに対しても、これまでの手法を拡張することで、重い中性子星の観測データと矛盾しない妥当なEOSを構築することができており、本研究は概ね順調に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、昨年度に得られた有限温度ラムダハイペロン物質の自由エネルギーを用いて、高温低密度領域におけるアルファ粒子の混合を考慮する研究に着手する。我々の従来の手法に基づいて、アルファ粒子は有限体積を持つ古典的粒子として扱い、核子・ラムダ粒子・アルファ粒子の混合系の自由エネルギー密度をアルファ粒子の混在度について最小化することで、熱力学的に安定な解を求める。そして、広範囲の密度、温度、粒子混在度に対して熱力学量をテーブル化し、高密度天体シミュレーション用EOSテーブルを完成させる。最終的な公開・配布を行うEOSテーブルでは、広範囲の密度、温度、粒子混在度の領域で滑らか且つ信頼性の高い熱力学量を完備する必要があるが、実際のシミュレーションでは使われない領域も含まれている。そのため、EOSテーブル構築の際、数値計算に膨大な時間がかかってしまう場合には、まずはシミュレーションで必要となる最低限の密度、温度、粒子混在度の領域だけをカバーしたテスト計算用EOSテーブルを作成することも検討する。
|
Causes of Carryover |
数値計算プログラムの高速化が順調に進んだため、計算用ワークステーションの導入を延期した。2019年度の研究状況に応じて順次、必要な数値計算プログラムの実行に適したPC・ワークステーションを導入することを予定している。
|