2019 Fiscal Year Research-status Report
変分法による超新星爆発計算用核物質状態方程式のラムダハイペロン混合系への拡張
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18K13551
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
富樫 甫 九州大学, 理学研究院, 学術研究員 (70733939)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 一様核物質 / 状態方程式 / ハイペロン / 超新星爆発 / 中性子星 / 変分法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ラムダハイペロン粒子の混合を考慮した高温・高密度核物質の状態方程式を生のバリオン間相互作用に基づいて作成し、得られた状態方程式を中性子星や重力崩壊型超新星爆発などの高密度天体シミュレーションへと適用することで、それらのメカニズムにハイペロン混合が与える影響を明らかにすることである。さらに、本研究で構築する状態方程式の数値テーブルはweb上で公開し、世界中の研究者へ提供することを予定している。 2019年度の研究では、前年度に引き続き、まずは拡張したクラスター変分法を用いて核子とラムダ粒子で構成された一様ラムダハイペロン物質の自由エネルギーの計算に取り組んだ。この際、ラムダ粒子が関連する3体相互作用については不定性が大きいため、3体核力UIXポテンシャルに含まれる状態依存性のない現象論的斥力項を拡張し、それを3つのバリオン間に働く3体力とみなす。ただし、各3粒子間に働く相互作用の強さは調節パラメターによって補正することとした。 前年度までの研究では、2つのラムダ粒子と1核子の間に働く3体力及び3つのラムダ粒子間に働く3体力は、それぞれの強さが3体核力の強さと同程度であると仮定していたが、2019年度の研究では、それらの3体力の強さを調節することで、中性子星内部の高密度物質における因果律を保証し、物質中の音速が光速を超えない状態方程式を得ることが可能となった。 さらに2019年度は、高温低密度領域におけるアルファ粒子の混合を考慮する研究に着手した。この際、アルファ粒子は有限体積を持つ古典的粒子として扱い、核子・ラムダ粒子・アルファ粒子の混合系の自由エネルギー密度をアルファ粒子とラムダ粒子の混在度について最小化することで、熱力学的に安定な解を求めた。数値計算の結果、他の既存の状態方程式と比較して、自由エネルギーや関連する熱力学量は妥当な振る舞いを示すことが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
高温低密度領域においてアルファ粒子の混合を考慮する際には、核子・ラムダ粒子・アルファ粒子の混合系の自由エネルギー密度をアルファ粒子とラムダ粒子の混在度について最小化する必要がある。この数値計算が、当初予定していた以上の計算時間を必要とするため、天体シミュレーションに適用できるだけの十分な熱力学量のテーブルを未だに完備することができていない。また現在の数値計算プログラムでは、他の既存の状態方程式テーブルと比較して、十分な精度で各粒子の混在度を決定することができていないため、本研究課題の進捗状況はやや遅れ始めている。 今後は、数値計算プログラムの高速化・高精度化と並行してスーパーコンピューターによる大規模計算を行うことにより、上記課題を克服していくことを目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、昨年度に引き続き、まずは高温低密度領域におけるアルファ粒子の混合を考慮する研究を進めていく。特に、数値計算プログラムの高速化・高精度化を行うことで、広範囲の密度、温度、陽子混在度における熱力学量を完備した、公開・配布用の最終的な状態方程式テーブルの完成を目指す。 また上記研究計画と並行して、実際の重力崩壊シミュレーションを行うことで、ハイペロン混合が高密度天体現象に与える影響を直接的に調べる研究にも着手する。この際には、核密度以上の高密度領域においては、現在までに熱力学量の計算が終了しているハイペロン物質状態方程式を使用し、一方で熱力学量が完備できていない低密度領域については、従来の核子のみで構成された状態方程式を代用することを予定している。これらの状態方程式を用いて、まずは太陽質量の40倍程度の質量を持つ重い親星モデルから出発した重力崩壊シミュレーションを行い、高密度領域におけるハイペロン混合がブラックホール形成のメカニズムに与える影響を調べていく。
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Research Products
(14 results)