2019 Fiscal Year Research-status Report
イトカワの粒子から探る太陽系小天体の硫黄消失メカニズムの解明
Project/Area Number |
18K13610
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
松本 徹 九州大学, 基幹教育院, 特別研究員(PD) (80750455)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 小惑星 / 鉄 / 硫化鉄 / イトカワ / 宇宙風化 |
Outline of Annual Research Achievements |
大気のない岩石質の小惑星表面では、固体の硫化鉄鉱物から硫黄が選択的に失われていると推定されている。小惑星表面の硫化鉄の量は、小惑星で進行した水熱変成や内部物質の分化と関連した重要な情報である。硫黄の量が時間的に変化することは、小惑星物質の本来の化学組成をリモートセンシングから知ることを難しくさせる。宇宙空間に曝された固体の化学・物理的な変化は広く宇宙風化と呼ばれる。宇宙風化の主な原因は、太陽から吹き出す電荷を帯びた粒子(太陽風)の照射や、微小隕石の衝突であると考えられている。宇宙風化は表面物質の変化を促す一方で、小惑星表面の年代や進化を知る鍵でもある。本研究では、探査機はやぶさが小惑星イトカワから回収された微粒子に注目して、硫黄に関連した宇宙風化作用を解明することを目指している。イトカワ粒子には硫化鉄がわずかながら含まれている。宇宙空間に長期にわたって暴露された硫化鉄表面の微小な組織を観察することで、硫黄の消失過程の有無やそのメカニズムを解明することを目的とした。微小な組織を観察するために、本研究では走査型電子顕微鏡と透過型電子顕微鏡を用いた。分析の結果、宇宙空間に曝された硫化鉄表面には金属鉄のひげ結晶が成長していることを発見した。ひげ結晶は最大で3マイクロメートル程度の長さをもち、硫化鉄表面の広い範囲を覆っていた。またひげ結晶が成長している硫化鉄表面は、太陽風の貫入深さ程度(50nm)までスポンジ状に変化しており硫黄が少なかった。イトカワ粒子の金属鉄のひげ結晶は、硫黄が失われた結果、過剰になった鉄原子から成長したと推測した。これらの研究から、太陽風によって硫化鉄が変質して硫黄が消失する現象が存在することを示し、その詳細な変化を明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
イトカワ粒子の硫化鉄の表面に見つかったひげ結晶構造に対して透過型電子顕微鏡観察を行なった。結果、ひげ嬢の結晶は金属鉄の多結晶で構成されることがわかった。また硫化鉄表面には泡が多数発達しており、表面付近の結晶構造は歪んでいた。泡や結晶の歪みは太陽風荷電粒子の貫入が原因であると考えらえる。また、太陽風の貫入の深さ程度まで硫黄の量が減少していた。こうした観察と先行研究との比較から、硫黄が減少するプロセスは主に太陽風によって駆動されると推定した。加えて、ひげ結晶は硫化鉄から硫黄が失われたことで形成したことを明らかにした。本研究の主要な目標は硫黄の消失過程の有無とそのメカニズムを明らかにすることであり、本年度の研究でひげ結晶の形成プロセスの主なメカニズムを解明することができた。また、こうした本研究の成果を論文としてまとめ、国際雑誌Nature Communicationsへの掲載にいたることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、ひげ結晶の形成メカニズムをイトカワ粒子の観察から推定することができた。また、太陽風を模擬したイオン照射実験から硫化鉄の変化の再現実験を行っている。ひげ結晶の再現には至らなかったが、硫化鉄表面の泡や結晶構造の再現に成功した。こうした成果を論文としてまとめる。また、異なる天体から回収された砂を調べ、宇宙空間に曝された硫化鉄の変化が様々な環境で共通のプロセスであるかどうかを調べることは重要である。イトカワ粒子の分析の発展的な研究として、アポロ計画で回収された月面の粒子を調べて、太陽風や微小隕石の衝突による硫化鉄の変化を調べることを計画している。
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Causes of Carryover |
宇宙環境における太陽風の照射を模擬したイオン照射実験を実施している。実験は相模原の宇宙科学研究所で行なっている。これまでに実験を行ったが追加実験の必要の可能性から、実験準備と出張費用として次年度使用額を計上した。また、イトカワ粒子研究の発展的研究としての、月レゴリス粒子の分析費用として、計上した。
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Research Products
(2 results)