2019 Fiscal Year Research-status Report
初期原生代生命圏の高解像度復元を目指した酵素金属微小領域分析の地質試料への応用
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18K13645
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
石田 章純 東北大学, 理学研究科, 助教 (10633638)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 初期原生代 / ガンフリント層 / 2次イオン質量分析計 / 窒素同位体比 / 有機物 / 酵素 / 微化石 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究対象の初期原生代(約19億年前)は,大気大酸化事変(約24億年前)後の時代であり,嫌気的(非酸化的)な太古代の生態系から,いわゆる現代的な好気的(酸化的)生態系へと主生産者が逆転した過渡期に当たる.この時代における海洋環境と対応する微生物活動を解明することは生命進化の観点から重要性が高い.本研究課題では特に生命の代謝活動を司る酵素と,酵素に用いられる微量金属元素が当時の海洋環境や生態系の主要微生物相に関係するという仮定に基づき,堆積岩中のバクテリアの化石(=微化石)や有機物における微量金属元素の検出・同定およびその微小領域分析によってこの問題の解明に取り組んでいる. 本年度の主な成果として,1. 約19億年前のガンフリント層における新種の微化石の発見と記載,2. 高空間分解能2次イオン質量分析計(NanoSIMS)による微化石の軽元素マッピングの作成,3. 微化石を対象としたNanoSIMSによる微量金属元素分析法の確立,4. 高精度2次イオン質量分析計(IMS-1280)による微化石の炭素窒素同位体比同時分析,5. 約21億年前Zaonega層堆積物における窒素同位体比の測定、を行なった.1.および2.については投稿論文を作成中である.3.は追加の分析が必要なものの,当初の目標である微化石中での微量金属元素の微小領域分析に初めて成功した.今後追加分析を行い,論文化を目指す.4.はウィスコンシン大学マディソン校所有のIMS-1280を用いた微化石の高精度炭素窒素同位体比同時分析を初めて実施した.5.は本年度より新たに取り組み始めた.ガンフリント層と同じ初期原生代の地層を対象に,同じ時代でもより広域での海洋元素循環や生態系の変化を,有機物窒素同位体比に着目した分析法で解明に取り組んでいる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究開始時に想定していた試料採集および分析法の確立をほぼ遂行できており,地質試料への応用も順調に進行している.一部の手法でまだ追加検証が必要であるが,最終年度内に課題を達成できる見込みが高いため「概ね順調」と判断した. 約19億年前ガンフリント微化石の同定およびNanoSIMSによる微化石の分析については,過去の研究で未同定の新種の微化石の発見とそれらの記載を行い,NanoSIMSによる炭素,窒素,硫黄の元素マッピングを作成することに成功した.これらの成果をまとめて国際誌への投稿準備を進めている.この分析法を発展させる形でNanoSIMSによる微量金属元素の分析法を確立した.当初の目標としていた金属元素と軽元素のカップリングによる分子イオンの検出および同定に成功し,酵素金属のバイオマーカーとしての利用を見据えた手法の開発に着手できた. IMS-1280による微化石の炭素窒素同位体比同時分析を,ウィスコンシン大学マディソン校で行なった.申請者が2018年度に発表した「有機物炭素窒素同位体比の高精度同時分析法」を地質試料に適用した初めての例である.初期原生代の微化石試料の同位体比分析の結果,窒素同位体比に微化石種に依存する有意差が見られた. 今年度より新たに,ノルウェー地質調査所のAivo Lepland博士との共同研究として,約21億年前Zaonega層堆積物における窒素同位体比の測定に取り組み始めた.Zaonega層はガンフリント層と同じく初期原生代に分類される堆積層で,shungite(炭素含有量95%を超える大規模有機物層だがその成因は不明)関連層として近年注目されている.初期原生代の元素循環を知る上で極めて重要な地層であり.現段階で,全岩レベルでの炭素窒素同位体比分析を進めており,窒素の捕獲相についてすでに過去の研究とは異なる成果を挙げるなど分析が順調に進んでいる.
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度,31年度(令和元年度)の試料採取および分析手法の確立が予定通りに進み,また初期原生代のガンフリント層以外の堆積層試料の研究に着手するなど順調に研究が進展している.最終年度においてはこれらの分析を継続しつつ国際誌への投稿を目指す. ガンフリント層における微化石の同定およびNanoSIMSによる元素マッピングの成果は年度中の論文受理を目指し投稿準備を進める.微量金属元素分析については金属-軽元素の分子イオンの同定に成功したため、次の段階として1次イオンの極性を切り替えた金属元素単原子イオンでの検出で裏付けを行うなど精緻な検証が必要であり、これを遂行する.IMS-1280による炭素窒素同位体比分析については解析を終え次第,次のマシンタイムを計画し追分析を行う.これには後述のZaonega層堆積物を含む予定である.約21億年前のZaonega層についてはLapland博士との共同研究を継続し,段階燃焼分析法を導入するなど窒素をホスト相に別に評価した同位体の分析を行う計画である.一方で本年度の目標の1つとしていた透過型電子顕微鏡による試料観察は試料調整の都合で停滞していたため,最終年度ではこれを再開する予定である.調整に関わる問題は克服している. 以上の成果をまとめ、初期原生代の海洋環境および微生物活動について従来的な地球化学的分析に、微小、微量、高精度の先端分析法を添加することで、当時の微生物種や活動場について過去の研究より高解像度で復元する包括的な手法の提案を目指す.
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Research Products
(6 results)