2018 Fiscal Year Research-status Report
スマートコントラクト技術を応用した障害に対して頑健な合意制御の実現
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18K13778
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
岡野 訓尚 岡山大学, 自然科学研究科, 助教 (80778209)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | マルチエージェントシステム / 合意制御問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,自律的に動作する多数のエージェントと,エージェント間の通信ネットワークで構成されるマルチエージェントシステムを対象に,エージェントの状態を同一値に収束させる合意問題に取り組む.本研究の特徴は,エージェントのダイナミクスを線形動的システムとして扱いシステムのモデルに基づき解析する従来のシステム制御工学的アプローチに,情報工学における分散制御技術を取り込むことである.これにより,通信やノードの障害,また悪意のある者によるサイバー攻撃に対して頑健な合意制御の実現を目指している. 本年度は,マルチエージェントシステムの合意制御の応用例である,分散時刻同期問題において下記の成果を上げた.分散時刻同期問題とは,通信ネットワークで接続された機器間で,GPSや電波時計など外部の参照信号を用いることなく,各々の時刻情報と近傍の機器との通信内容によって時刻の同期を達成する問題である.先行研究では,通信に遅延が発生しないという理想的なシナリオにおいて,この問題がマルチエージェントシステムの合意問題に帰着できることを示した.しかし,時刻同期の難しさの本質は通信遅延の取り扱いにある.本研究では通信遅延がある場合を考え,2ノード間の通信の往復時間(ラウンドトリップタイム)から,通信遅延を推定し,遅延による同期誤差を低減するアルゴリズムを提案した.これは,モデルを用いた理論的な検討から着想を得たが,結果的に,計算機ネットワークの同期でよく用いられるNTP (Network Time Protocol) における遅延の保証と同様のアイディアを用いている.この他,分散サーバの同期手法であるRaftアルゴリズムに注目し,これを動的なマルチエージェントシステムの合意へ応用する検討も行っている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
合意制御問題の応用例である分散時刻同期問題において,実用上重要な通信遅延を想定した新しい同期手法を提案できた.また,それがネットワークで接続された計算機間の同期でよく使われる技術との関連があることを示せたのは,本研究の狙いとも一致する.一方で,並行して取り組んでいるRaftアルゴリズムの応用については,アルゴリズムの正しさを検証する手法の確立に時間がかかっている.これまで,数理モデルによる検証,形式手法を用いた検証,シミュレーションによる検証を行っているが,今後はとくに形式手法による検証に力を入れたい.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では,これまで行ってきた 1) 具体的な応用例を意識した分散時刻同期アルゴリズムの解析と,2) 分散サーバ制御技術の制御応用の両方について,引き続き検討を続ける. 1) の分散時刻同期について,従来手法より通信遅延に対して頑健なアルゴリズムを提案できたが,その振る舞いを理論的に解析する点で不十分であった.とくに,エージェントが3台以上の場合については達成される同期誤差や収束性の保証など未解決の課題があるため,それに取り組む. 2) については,進捗状況の報告で述べたが,形式手法を用いた提案アルゴリズムの検証に取り組む.また,シミュレーションやマイコンボードを用いた実機実験において有効性の確認を目指す.
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Causes of Carryover |
計画と費用の乖離が生じた主な原因は,実機実験にかかる費用の変更である.当初の計画に比べ合意制御の分散時刻同期への応用について進展が見られたが,その有効性確認は数値シミュレーションによって行っており,マイコンボードを用いた実機検証は未実施である.実機実験のハードウェア購入費用,実験実施にかかる学生アルバイト謝金等は次年度に計上する.
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