2018 Fiscal Year Research-status Report
プレート境界デコルマ帯における大規模海底地殻変動メカニズムの解明
Project/Area Number |
18K13831
|
Research Institution | National Institute of Maritime, Port and Aviation Technology |
Principal Investigator |
杉山 友理 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所, 港湾空港技術研究所, 研究員 (50803615)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | サンプリング乱れ / 変質 / 数値解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年多発する地震津波につながるプレート境界デコルマ帯の不安定性挙動の原因が,粘土鉱物の変質に伴い発生する“水”であると考えられている.本研究は,粘土鉱物の変質を考慮できる数値解析手法を提案することで,粘土鉱物の変質と地殻変動の関係について検討し,デコルマ帯における大規模海底地殻変動メカニズムを解明することを研究目的とする.当該年度では,鉱物の変質を表現可能な数理モデルを提案し,土/水/気体連成問題として整理した.変質作用としてスメクタイトのイライト化に伴う相変化モデル及び摩擦特性及びダイレイタンシー特性変化を表現できる構成モデルを提案した.提案した数理モデルを組み込んだ解析プログラムを用いて,鉱物の変質に関する既往の実験を模擬したシミュレーションを行い,実験結果と解析結果の比較検討をすることで,数理モデルの妥当性を確認した.また,デコルマ帯における応力状態を正確に把握するため,海底地盤からのサンプリングから室内試験に至る過程をシミュレートし,採取試料の乱れが室内試験結果に及ぼす影響について定量的に調べた.その結果,大深度から試料を採取すると,採取過程で試料が不飽和化し,サンプリング試料を用いた力学試験結果では原位置強度を正確に把握することができないことが分かった. 本研究は,これまで個別に研究されてきたこれらの研究を踏襲し,モデル化・数値解析を通して,地盤工学と,理学・化学といった多種多様な分野を統合しようとするものである.各現象を総合的に評価するシミュレータの開発を行うことで,既存の研究を整理できるだけでなく,今までの議論に必要不可欠であった未解明事項を補うことができたといえる.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
電子顕微鏡を用いて各粘土鉱物の間隙について調べた結果,間隙体積が顕著に異なることが分かった.また,せん断試験結果からは,摩擦特性及びダイレイタンシー特性が異なることが分かった.これらのことから,変質作用としてスメクタイトのイライト化に伴う相変化モデル及び摩擦特性及びダイレイタンシー特性変化を表現できる構成モデルを提案した.また,提案した数理モデルを解析プログラムに組み込むことができた.次に,サンプリングに伴う採取試料の飽和度変化及び応力変化について定量的に調べることで,原位置応力状態を正確に把握することができる最適な試験方法について検討した.その結果,間隙水中には多くの溶存気体を含むため,溶存気体の気化による採取試料の不飽和化が生じることが分かった.採取試料が不飽和状態であると室内試験結果に大きく影響を及ぼし,原位置の応力状態や強度を誤って評価してしまう.そこで,サンプリング後の応力状態を初期値として一軸圧縮試験シミュレーションを行ったところ,特に水深及び海底深度の深い試料は,過圧密化及び不飽和化が強度増加に及ぼす影響が有効応力減少による強度低下に及ぼす影響を上回り,原位置強度を過大に評価してしまうことが分かった. このように,数理モデルの提案及びサンプリング時の応力変化について当初の計画通りに研究を進めることができたため,進捗状況はおおむね順調に進展していると評価した.さらに,当該年度で実施した研究成果を論文で発表することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は,変質しながらせん断作用を受けた場合の力学挙動について調べるため,構築したモデルを用いて要素シミュレーションを行う.次に,想定し得るプレート沈み込み速度及び変質速度の違いによる影響についてのケーススタディを行う.このとき,今年度の検討結果を踏まえて,実際にデコルマ帯から採取された試料を用いた力学試験結果の解釈を行い,数値解析における初期応力条件を決定する.また,実際にプレート沈み込みによるせん断作用を受ける海底地殻を想定し,変質とせん断に加え,堆積断層の自重圧密についても考慮した数値解析を行うことで,海底地殻における力学挙動がどのように大規模海底地殻変動に繋がるか検討し,両者の関係性について解明する. また,原位置応力状態を把握するために最適なサンプリング方法及び室内試験方法についても検討を行う.このとき,数値シミュレーションだけでは妥当性について評価することが難しいため,既往のサンプリング試料を用いた実験結果などの再現解析を行う.室内試験としては,今年度に検討した一軸圧縮試験に加え,三軸圧縮試験を検討予定であり,再圧縮に用いる圧密圧力が課題になると考えている.
|
Causes of Carryover |
産前・産後休暇のため,本年度の研究機関が短くなったため差額が生じた。育児休業後,本年度で行うことができなかったサンプリング模擬実験及び数値解析に差額を使用する予定である。
|