2018 Fiscal Year Research-status Report
環境DNAを利用した新たな水生昆虫種多様性解析手法の確立と季節変動の評価
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18K13858
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
八重樫 咲子 山梨大学, 大学院総合研究部, 助教 (30756648)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 水生昆虫 / 環境DNA |
Outline of Annual Research Achievements |
水圏生物の種多様性を調べるツールとして環境DNAが注目を浴びている。環境DNAとは生物が環境中へ放出したDNAである。従来、行われている標本採集と形態同定に基づく種多様性評価では、採集バイアスや労力、標本同定の複雑さ・困難さなどの問題点がある。しかし環境DNAを用いた場合、その由来となった生物種をDNAから解析することで、簡単に水生生物の種多様性評価を行うことができる。 環境DNAは水圏種多様性評価の強力なツールであるが、水生昆虫を対象とする場合、DNA解析が進んでいない種が多い点、水生昆虫以外の分類群のDNAが解析データに混入してしまう点が大きな問題となる。また、魚類と比較して環境DNAの発生メカニズムがあまり研究されておらず、環境DNA解析に効果的な採水戦略を立てにくい。 そこで本研究では、水生昆虫を対象とした環境DNAのDNAバーコーディングによる種多様性調査手法を構築するため、以下の研究を行う。はじめに、研究対象流域内において定期的に生息する水生昆虫の採集を行い、同時に環境DNAも抽出する。次に、流域内から得られた水生昆虫のDNAの塩基配列を解読し、流域内のローカルなDNAデータベースを整備する。続いて、得られたデータベースを利用して水生昆虫種のDNAのみを増幅するPCR法を検討し、次世代シーケンサーを用いた環境DNAのメタバーコーディングにより水生昆虫の種多様性を明らかにする。そして種ごとの環境DNAの出現量、出現時期と形態同定によって得られた各種の出現状況の対応から環境DNAの季節変動と発生源の推定を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年目は富士川水系内で定期的に水生昆虫と環境DNAの採集を行なった。富士川水系は山梨県北杜市と長野県諏訪郡富士見町の鋸岳が水源である。山梨県と長野県の県境に端を発し、甲府盆地を流下し、笛吹川・早川などの支流と合流し、静岡県から太平洋へと注ぐ。幹線流路延長128㎞、流域面積は3,990 km2の一級河川である。本流にはダムが存在せず、自然状態に近い出水環境を持つ河川と考えられる。 これまでに甲府盆地内の上流から下流までの10調査地点で環境調査、水生昆虫の採集、環境DNAの回収を行なった。この際、流速、水深、標高、濁度、溶存酸素濃度、生物化学的酸素要求量、堆積有機物量など調査地点の物理特性、水質特性、エサ環境特性などの環境項目を測定した。 環境DNAは次の方法で抽出した。まず各地点から得られた河川水を500mlずつメンブレンフィルター(孔径:0.2um)で3回ろ過し、-20℃で保管した。次に、フィルターを裁断し、タンパク質を分解するためにプロテイナーゼK処理を行なった。そして、フェノール・クロロホルム法でDNA抽出し、エタノール沈殿によりDNAを回収した。その後、PCR阻害物質の除去を行なった。 採集した水生昆虫は日本産水生昆虫科・属・種への検索第二版(川合&谷田、2018)を用いて分類群の同定を行なった。集水域にダムが存在する地点と存在しない地点で水生昆虫の種多様性を比較した結果、春季と夏季には大きな差は見られなかった。しかし、秋季には、集水域にダムが存在しない調査地点では、ダムが存在する調査地点と比べて秋季に底生動物の種多様性が高まる傾向が確認された。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目は、1年目に引き続いて採集した水生昆虫の同定を行う。また得られた水生昆虫のうちカゲロウ・カワゲラ・トビケラに対して体長・頭長を測定し、成長段階を推定する。次に、各地点から得られた水生昆虫からDNAを抽出する。調査地点を環境特性から源流・上流・中流・氾濫原などのカテゴリに分類し、そのグループごとに1分類群あたり1-3個体を選択し、水生昆虫の足あるいは腹部の組織からDNA抽出する。対象分類群は流水域によく生息するカゲロウ・カワゲラ・トビケラの3目とする。そして、昆虫綱のDNAを対象としたユニバーサルプライマーを用いてCytochrome Oxidase I (COI) 領域をPCRする。得られたPCR産物は未反応のプライマーなどを生成して、サンガーシーケンスで塩基配列を2方向から解読する。その後、全データのアライメントを行い、シーケンスデータを整理する。 続いて得られた全DNA配列のCOI領域間の系統関係を表す進化系統樹を構築する。この進化系統樹はカゲロウ・カワゲラ・トビケラそれぞれで作成する。その後、Poisson Tree ProcessモデルとGeneralized Mixed Yule Coalescent モデルを利用し、3目それぞれの系統分化速度を最尤推定し、系統樹内で種分化の境界年代を推定する。この境界年代に基づいて種を分類することで、各種の代表配列をまとめ、富士川水系流域内の水生昆虫3目のDNAデータベースを構築する。
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Causes of Carryover |
本年度は現場調査用品の損失が少なかった点、一部試薬でより安価なものを使用することができたため、次年度使用額が生じた。これは消耗品購入に使用する予定である。
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Research Products
(7 results)