2018 Fiscal Year Research-status Report
海洋生物の翻訳後修飾にヒントを得た高強度水中接着ポリマーの創出
Project/Area Number |
18K14000
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
江島 広貴 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (00724543)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 水中接着 |
Outline of Annual Research Achievements |
イガイは接着の難しい海水中であっても,岩に強固に付着し,波にさらわれることはない.一方で,人工接着剤の代表格であるエポキシ系接着剤でシリカ表面を接着させることは空気中でならば簡単だが,水中では非常に難しい.これはシリカ表面が水に覆われている方が,接着剤と接するよりも界面自由エネルギー的に安定だからである.イガイはこの難しい水中接着を,タンパク質性接着剤を用いていとも簡単にやってのけている.さらにイガイは,シリカのような鉱物だけでなく,テフロンなどの表面自由エネルギーが小さい被着体にさえ接着することもできる.これらの事実は海洋生物学者の興味を惹き,その接着原因物質の探索が行われた.これまでにチロシンが翻訳後に水酸化されてできるDOPAを多量に含む6種類のタンパク質(mfp 1-6)が同定されており,mfp 2-6は接着部位である足糸のみで発現している.そのためDOPAの側鎖のカテコール基が岩石表面と水素結合することで強固に接着していると考えられるようになった. 本研究では,なぜイガイが進化の過程でカテコール基を接着用途に選択したのか?という疑問に端を発し,カテコール基より1つヒドロキシ基の少ないフェノール基(相当するアミノ酸はチロシン)では不十分だったのか?逆に,1つヒドロキシ基の多いガロール基(相当するアミノ酸はTOPA)では水中接着能は更に上がるのか?という具体的な問いを設定した.これに答えるため,本年度はフェノール性水酸基(フェノール基,カテコール基,ガロール基)のみを側鎖に持つ分子量が精密に制御されたモデルポリマーの合成経路を考案し,実際にこれらの高分子の合成に成功した.さらにヒドロキシ基に着目した金属イオンとの複合材料化についても研究を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画通り,フェノール性水酸基(フェノール基,カテコール基,ガロール基)のみを側鎖に持つ分子量が精密に制御されたモデルポリマーを合成することができたから.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の核心的な問いである,なぜイガイは進化の過程でカテコール基を接着用途に選択したのか?という疑問に答えるにはフェノール性水酸基(フェノール基,カテコール基,ガロール基)のみを側鎖に持つ分子量が精密に制御されたモデルポリマーを用いて同一条件下で比較するという合成化学的なアプローチに基づいた基礎研究が有効である.今後は初年度に合成法を確立したフェノールorカテコールorガロールを側鎖に持つ共重合体の水中接着能を同一条件下で評価する.
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