2019 Fiscal Year Research-status Report
フレキシブル熱電発電モジュールの設計に向けたp型、n型有機材料の開発
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18K14017
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Research Institution | Tokyo University of Science, Yamaguchi |
Principal Investigator |
秦 慎一 山陽小野田市立山口東京理科大学, 工学部, 助教 (20796271)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | カーボンナノチューブ / ヒドラジン類縁体 / n型半導体 / 有機熱電材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
期間2年目では主に、n型半導体有機材料の開発に取り組んだ。 従来、還元剤・電子供与化合物(アルカリ金属、ポリアミンなど)添加されたカーボンナノチューブ(CNT)は、n型半導体特性を示すことが報告されていた。しかしながら、大気中酸素の酸化を受け、室温にてわずか数分しかその特性を維持することができず、その物性研究はほとんど進展していなかった。 申請者は、ドーパント剤として孤立電子対をもつヒドラジン類縁体を用いることで、CNTを再現良くnドープできることを発見した。これまで、ドーパント剤の電子供与性が強いほどCNTのキャリアをホールから電子に変え、持続的なnドープが可能とされていた。しかし、一連のヒドラジン類縁体を検討した結果、最も電子供与性の大きいヒドラジン(HH)が最もCNTのn型安定性が低く、最も電子供与性の小さいジフェニルヒドラジン(DPH)が最もn型安定性が高かった。即ち、申請者は既成概念を覆し、CNTと相互作用するフェニル基を導入した場合、DPHのような電子供与性の弱いドーパント剤でもCNTのn型安定性に有効であること発見した。さらに、CNTと親和性の高いフェニル基をもつヒドラジン化合物DPHをドープしたCNTの場合、汎用性高分子PVCで封止することで、この材料が加速劣化試験(80 ℃)で35日間以上n型半導体特性を示すことを実証した 。本機能はCNTに対する持続的なnドープ作用を持つ“ドーパント分子”と、それをCNT表面に固定化する“高分子封止剤”の協奏的な効果によってもたらされる。このユニークな方法論と成果は、速報誌としてChemistry Letters, 48, 1109-1111 (2019)に掲載された。その他、本研究に関する昨年度の研究成果も含めて、学術論文を3報報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
n型CNTは、キャリアである電子を維持することが難しいとされてきた。上記の系は既報と比べても、CNTに対して強固に電子ドープ状できる数少ない例であり、しかもこの特性は酸化反応が進みやすい加速度劣化条件でも長期的に示される。つまり、CNTの電子状態および電子経路は極めて興味深い。 加えて申請者はこの研究と並行して、調製溶媒がCNTの半導体特性に与える影響も検討した。封止剤にシクロデキストリンポリマー(PCyD)を用いたCNTでは、ある特定の電子供与性有機溶媒で調製されたときのみに、n型半導体特性が示されることもわかってきた。これは、PCyDと溶媒分子との超分子的な相互作用によって、溶媒がドーパント剤となりえることを意味している。この材料は、高分子基盤に対してCNT分散溶液をキャスト・乾燥することで得られ、柔軟性も有している。つまり、印刷技術を応用して大量作成することも可能である。しかも調製溶媒を精査することで、p型とn型半導体フィルムが並列した双曲型有機熱電モジュールを容易に作成することもできると期待される。このようなプリンテッド・エレクトロニクスに対する寄与も非常に高い知見が得られており、本課題の進歩状況を判断した。
一方、これまでn型材料の調製溶媒として、CNTの分散性の観点から高沸点有機溶媒(N-メチルピロリドンやジメチルスルホキシドなど)が用いられてきた。しかしながら、自然環境へ懸念とその毒性・危険性から、水系での材料調製が望ましい。これらに関する研究成果も地道に積み重ねつつあり、近々学術論文として投稿する。
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Strategy for Future Research Activity |
熱電発電モジュールは温度差を直接、電力に変える発電できるため、タービン・モーターなどのような高圧ガスや機械的設備が必要ない。さらにフィルム成型可能な有機熱電モジュールは、工業プラントに無数にある低温廃熱・曲面のある熱配管に適用できる。つまり、近年急速な発展を迎えている水素エネルギー技術を補填する側面有しているため、これらの特性は意義深い。将来的には自動車やウェアラブルデバイス機器等の電源としても期待される。しかしながら、これまで報告されている多くの論文においては、n型材料の入手性の問題もあり、出力性能的な観点で不適切なp型のみのモジュール(ユニレグ型構造)を作製している。そのような中、本課題は化学的安定なn型有機材料の開発に成功した。来年度は研究最終年度にあたるため、p型とn型からなる双極型モジュールの作製と評価の検討に入る。
具体的には、貴金属クラスタ-によりホールドーピングされた高い出力因子のp型CNTと上記のn型CNTからなるモジュール作製する。その際、モジュールにおける温度に対する開放電圧と発電特性を調べ、適宜pn素子対の依存特性と個々の材料の最適化に取り組む。また材料性能は、母体材料であるCNTの電子状態が重要となるため、実験的手法のみならず、計算化学的手法を取り入れることで、研究速度の向上を図る予定である。
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Causes of Carryover |
一部学内予算で補填できたため、次年度使用額が生じた。一方本課題の研究費は、原料試薬および調製溶媒・ガラス器具の調達に使用する。また申請者は材料調製から物性評価にわたる一連の研究注力するために、有機分子の合成・評価装置機器とデバイス関連の評価機器を一部補填する予定である。これにより、有機熱電材料の概念の拡張を図り、かつその本性に起因する物性を解明することで、産業用材料への応用の可能性を明らかにする。
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Research Products
(17 results)