2020 Fiscal Year Research-status Report
Opening up emerging properties of strained graphene
Project/Area Number |
18K14080
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
塩谷 広樹 大阪大学, ナノサイエンスデザイン教育研究センター, 特任助教(常勤) (50417135)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | グラフェン / 格子変形 / 電子状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
グラフェンは炭素原子の六角格子から構成される二次元材料です。黒鉛(グラファイト)は層状物質として知られていますが、この層状物質を構成する1層がグラフェンです。このグラフェンの変形(格子歪み)に起因した「擬磁場(定常磁場が印加されているのと同等の状況)」の制御は理論・実験の両面から大きな注目を集め、現在も活発に研究発表がされ続けています。 近年の原子層材料(グラフェン、遷移金属ダイカルコゲナイド)の研究において、異種の二次元材料を積層させたり、自然界に見られる安定構造とは異なる積層構造を同一材料で設計し物性検討したりする研究が流行しています。この中で現状最も有名な成果は、魔法角と呼ばれるねじれ角度に設定された二層グラフェンにおける超伝導の観測(Y. Cao, et al., Nature 556, 43 (2018) )です。いわゆる自然に安定な二層グラフェンの積層構造は、AB stackingと呼ばれる構造ですが、魔法角グラフェンは2枚のグラフェンの積層関係がAB stackingと比較すると面内にねじれる様に操作されています。この人為的に作製された積層構造は二層グラフェンを構成する相互の原子位置を変え、電子状態はフラットバンドと呼ばれる状態に変わります。フラットバンドにおいては、電子状態が同一エネルギーに多数縮退する事から、電子間相互作用が強まると考えられます。実際、魔法角グラフェンにおいても超伝導転移が観測されて、層間の積層構造を人為的に制御する事が電子状態制御となる事の実験確認となりました。 我々が観測した多層グラフェンの層間すべりにおいても、元々安定な構造から炭素原子の相互関係が変位し、電子状態も変化しているものと考えられます。この層間のすべったグラフェン作製法の利点は、層間に気泡が入りづらく、ねじれたグラフェンよりも比較的大きな試料を得られる点にあります。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルスの感染拡大状況により、研究に必要な道具や施設の利用時間が限られた事が一因として挙げられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今回の研究期間では先ずグラフェンの格子変形を自在に行う事を目的に、従来よりも大きな歪み印加を可能にする方法検討から開始しました。その結果、当初の意図に加えて、別観点からの興味深い変化を観測しました。それは、複数層グラフェンにおける層間ずれ(滑り)の発生です。 2018年3月にNature誌に発表された積層角度を人為的に制御した2層グラフェンにおける超伝導の発見(Y. Cao, et al., Nature 556, 43 (2018) )に代表される様に、最近のグラフェン研究では積層構造の変調を用いた電子状態制御に大きな注目が集まっています。今回我々が観測した層間ずれも積層構造変調の一種と言え、引き続きその電子状態と電気伝導特性の解明に取り組みます。 また、今回の歪み印加強度増強の試行錯誤結果を反映し、当初の目的であった歪みの自在な制御とそれを用いた擬磁場の応用に向けて研究を継続して参ります。更に、歪んだ状態のみならず、層間にすべりが生じた積層構造にも着目しそれらの物性追求と応用について研究を進めます。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの流行により、予定していた使用機器の運用に影響が出た都合、物品の購入計画が変更を余儀なくされた為。
|