2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K14111
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
輕部 修太郎 東北大学, 工学研究科, 助教 (30802657)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | スピントロニクス / スピンオービトロニクス / スピン軌道トルク / スピンホール効果 / 電気伝導性酸化物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題申請書に記載の内容に基づき、今年度は電気伝導性酸化物、特にレニウム酸化物に着目をし研究を行った。磁気デバイスの根幹を成す磁化反転現象は、物質中のスピン軌道相互作用によって生じる「スピン軌道トルク」を用いる事で、効率的に行える事が知られている。より高効率で機能的な新奇材料を見出すことを目的に本課題を遂行している。レニウム酸化物は電気伝導性を有する事で有名であり、重金属レニウムを含むため、スピン軌道相互作用が大きい事を期待し研究対象とした。 実験ではまず始めに、レニウム酸化物薄膜を酸素導入した反応性スパッタリングにより作製した。続いて電子線描画やイオンミリング法などを用いて素子を準備し、スピントルク強磁性共鳴と呼ばれる高周波測定によりスピン軌道トルクの測定を行った。比較対象としてレニウム金属の測定も行ったが、こちらはほとんどトルクを生成しない事が分かった。一方で興味深いことに、レニウム酸化物では最大で約7 %にもなるスピン軌道トルク生成効率を有する事が分かった。これはスピン軌道材料として有名な白金に匹敵する値である。本結果はレニウムが酸化された事で、スピン軌道材料としての機能を獲得した事を意味し、新奇材料を見出し事になる。 トルク生成のより詳細な議論を行うため、レニウム酸化物の結晶性の測定も行った。X線回折からはレニウムがアモルファス化している事が分かり、結晶性から期待されるバンド構造由来の現象や、イオン結合性からくる光学フォノン散乱起因の現象では無いと考えられる。そのため、アモルファス性が誘起するアンダーソン局在が起因した外因性のスピンホール効果によって、本レニウム酸化物中でスピン軌道トルクを生成していると考えられる。本研究はアモルファスレニウム酸化物中でのスピン軌道トルク生成に成功し、その機構を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」にも述べた通り、本課題では初年度に新奇スピン軌道材料であるレニウム酸化物を発見した。これはこれまで探索されてきた従来の重金属群や、トポロジカル絶縁体などといったカテゴリーとは全く異なるものであり、スピントロニクス素子にとって有用な新奇スピン軌道材料群がまだまだ存在する事を示唆するものである。またバンド構造により導かれる従来のスピンホール効果の描像に反し、アモルファスであっても電気伝導性を有していれば有限なスピン軌道トルクを発現する事も見出した。これに基づき、本レニウム酸化物に対するスピン軌道トルク生成機構も明らかにしており、現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度の研究では酸化物、特にイオン結合性を上手く利用し、これまでに報告が無い光学フォノンが誘起するスピン軌道トルク生成(スピンホール効果)を目指す。そのためには前述のアモルファス酸化物では議論できないため、より高品位の結晶性を有した酸化物作製を行う。 具体的には、ルテニウム酸化物の研究を行う。本酸化物は適切な基板を選ぶことで、反応性スパッタリング成膜法によりエピタキシャル成長が可能である。本材料を用いて、抵抗率の温度依存性や、テラヘルツ分光測定などから光学フォノンの存在を確認し、それがスピン軌道トルク生成にどのような影響を及ぼすのかを調べていく予定である。光学フォノンはこれまで調べられてきた重金属中には存在しないので、もし有限な寄与があれば新しいスピン物性の知見を得られる可能性がある。
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