2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K14112
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
河口 真志 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (90792325)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | スピントロニクス / 超伝導 / スピントリプレット / スピン軌道相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では超伝導/強磁性接合系を舞台として近接効果によって強磁性体内に誘起された超伝導状態について、そのスピン状態を明らかにすることを目的としている。強磁性体内における超伝導状態についてはスピン三重項状態が実現されているという間接的な証拠があり、超伝導状態におけるスピン輸送や、新奇な物理現象が期待されている。本研究では、超伝導/強磁性接合系について、非局所スピンバルブによってスピン注入を行うことで、その状態を調べる予定である。本年度においては、それに向けた準備段階として、超伝導/強磁性接合系について、その基本的な性質を超伝導転移に着目して調査を行った。 超伝導/強磁性接合系で、超伝導の侵入長の長さから特に有望と考えられている組み合わせがW/Coの組み合わせである。この物質では、界面においてスピン軌道相互作用がCoに影響を及ぼしている可能性があり、強磁性体への超伝導の浸み出しとの関連を調査する計画であった。本年度では実際に、構造を様々に変えたW/Coに類似の多層膜を作製し、その超伝導転移温度と臨界磁場を調査した。その結果、MoN/W二層膜について、MoN単層膜やW単層膜よりも、MoN/W二層膜の方が超伝導転移温度、臨海磁場が大きくなることが明らかになった。更に、この現象は、Wのアルファ相への相転移によって抑制されることが示された。この傾向は、上にCo層を付けたMoN/W/Co三層膜においても確認された。Wはアルファ相への相転移によってスピン軌道相互作用が関係するスピンホール効果の大きさが小さくなることが知られており、Wのスピン軌道相互作用と超伝導の関係を示唆している可能性がある。また、超伝導の転移温度が材料ではなく構造によって大きくなる点については応用上においても重要な結果であると考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度においては計画当初に使用予定であった機材の使用時間が十分に確保できなかったため、計画とは異なる方法で研究を進めた。その方法においては、予定していた機材を用いずに簡便に研究が可能であるものの、計画段階で焦点を当てる予定であった物理的な特性、強磁性体中への超伝導状態の侵入と、強磁性体界面における相互作用の関係については部分的な情報しか得ることができない。その結果、目標となる強磁性体への超伝導の侵入によって実現される特異な超伝導状態の調査には至らなかった。しかしながら、当初予定していなかった、超伝導/超伝導における接合系において、応用上も重要である超伝導転移温度を構造によって変化し得るという新たな知見が得られた。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度からは今まで使用を予定していた共同利用装置とは異なる新たな機材が使用可能となったため、その機材を用いて新たな測定系を立ち上げ、当初計画していた微細加工を伴う強磁性/超伝導の接合系に焦点をあてて研究を行っていく予定である。
|
Causes of Carryover |
本年度においては、予定していた機材の使用時間が十分確保できなかったため、実験の進捗に遅れが生じ、計画を変更して実験をすすめた。そのため、次年度使用額が生じることとなった。しかしながら、次年度には予定とは異なるが同様の機材が使用できる見通しが立ったため、再び当初予定通りの研究計画に沿って予算を使用していく予定である。
|