2018 Fiscal Year Research-status Report
層状酸化物のデバイス化による新奇電子輸送現象の探索
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18K14121
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
原田 尚之 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (90609942)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 薄膜 / デバイス / 酸化物 / 層状物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、高い電気伝導性を有する層状酸化物金属PdCoO2に着目し、薄膜微細構造において特異な輸送現象を探索する。PdCoO2は、Pd層とCoO2層が交互に積層された特徴的な層状の結晶構造を有する。Pdの2次元的な電気伝導層に由来して、単体のAuと同等の高い電気伝導度を示す特異な物質である。今年度は、PdCoO2薄膜の作製条件の最適化と、微細加工技術の確立に重点をおいて研究を進めてきた。酸化物薄膜の結晶成長に適したパルスレーザー堆積法を用いて、PdCoO2薄膜の作製条件を最適化し、薄膜の高品質化に取り組んだ。c面サファイヤ基板 (格子ミスマッチ -2.9 %)を用いて、結晶成長温度・酸素分圧・照射レーザーのエネルギー密度を制御して成長条件の最適化を行った。X線回折・透過型電子顕微鏡でPdCoO2薄膜の詳細な結晶構造を明らかにした。また、直流4端子法を用いて低温で電気特性評価を行い、PdCoO2薄膜の磁気輸送特性を調べた。微細構造で予測される電子系の特異な振る舞いを探索するために必要な基盤技術として、PdCoO2薄膜を電子線リソグラフィーを用いて微細化し、サブミクロンスケールの細線を作製するプロセスを確立した。低温での電気抵抗は、薄膜中の欠陥密度が支配していると考えられる。そこで、PdCoO2バルク単結晶並みの低温輸送特性を薄膜で実現するため、高純度なPdCoO2多結晶ターゲットの作製に取り組んだ。並行して、PdCoO2と結晶構造のマッチした酸化物半導体との接合作製を試み、PdCoO2の高い電気伝導性を利用したデバイスの開発に取り組んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目的は、PdCoO2薄膜デバイスにおいて、新しい電気輸送現象を探索することである。本年度は、その基盤構築として、高品質なPdCoO2薄膜の作製方法と、ナノスケールのデバイス作製技術の確立に取り組んだ。 【高品質なPdCoO2薄膜の作製】 パルスレーザー堆積法を用いて、高い結晶性を有するPdCoO2薄膜の作製に成功した。ただ、PdCoO2薄膜の低温での電気伝導度は、バルク単結晶に及ばないのが現状である。低温での電気伝導度をさらに向上するために、PdCoO2の原料ターゲットの高純度化を行った。ターゲットの原料・製造工程を見直すことで純度を向上することに成功しており、次年度にこの新しい原料を用いた薄膜作製と低温での輸送特性評価に取り組む予定である。また、当初予期していなかった成果として、高品質なPdCoO2薄膜を酸化物半導体上に成長可能であることを見出した。積層構造の電気輸送特性を詳細に評価したところ、整流デバイスとして利用可能であることが明らかになった。低温での残留抵抗低減という課題はあるものの、PdCoO2薄膜の高品質化はおおむね順調に進んでいると考えている。
【ナノスケールデバイス作製技術の確立】 電子線リソグラフィーによる微細素子作製は MPI-FKFとの国際共同研究を通して行った。高い解像度を有する無機レジストを利用し、描画条件を最適化することで、最小線幅 10 nmの素子作製に成功した。作製したデバイスの輸送特性評価は現在進行中である。次年度に予定しているPdCoO2微細構造における輸送現象探索を遂行する上で必要な基盤技術は整ったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度ではまず、原料の高純度化によりPdCoO2薄膜の低温電気伝導度向上に取り組む。作製工程の異なる複数の原料ターゲットを用いて PdCoO2薄膜を堆積し、低温での残留抵抗と原料純度の関連を調べる。原料の高純度化のみで残留抵抗が低減されなかった場合には、薄膜の成長初期過程の最適化・薄膜成長後の熱処理により残留抵抗の低減を試みる。並行して、微細素子の電気輸送特性評価を進める。これまでに確立した電子線リソグラフィープロセスにより、線幅を数10nm~数μmの範囲で変化させた構造を作製する。まずホール素子形状を作製し、低温・磁場下での輸送特性評価を行う。PdCoO2バルク単結晶で観測されている、2次元電子系の流体力学的な挙動に由来する効果を、薄膜デバイスで観測することを初めの課題として設定し研究を進める。電気特性評価と走査型プローブを利用して、電子粘性流による特異な電気伝導現象を探索する。その後、ナノスケールで顕在化する量子力学的な効果との競合により、どのような輸送現象が現れるのか、薄膜デバイスの構造・サイズ・形状を変えながら探索していく。本年度に構築した国際共同研究の枠組みを継続的に活用し、迅速に研究を遂行する。上記の実験計画に加え、本年度に得られた成果の発表を進めていく予定である。
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