2020 Fiscal Year Research-status Report
高強度光電場に駆動される電子・正孔ダイナミクスの理論研究
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18K14145
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
篠原 康 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任助教 (90775024)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 高次高調波発生 / 密度汎関数理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
高強度電場による電子と正孔の運動により、入射光の周波数の整数倍の分極振動が誘起され、その結果高次高調波光の輻射が起きる。本研究課題で開発した、密度汎関数理論で評価した独立電子系を解く理論的枠組みを用いて、CsPbCl3からの高次高調波発生の微視的起源の解明に取り組んだ。シミュレーション結果を解析することにより、高調波の成分は正孔のバンド内運動が主要な起源であることを示した。本物質は照射電場の偏光と結晶の相対角を変えると、大きく高調波の発生効率が変化することが、共同研究者による実験と我々のシミュレーションにより示されている。シミュレーションの結果を解析することで、この角度依存性の起源は物質のバンド分散の異方性ではなく、過渡的な電子・正孔対励起の効率に依っていることを示した。 超短光パルスを用いることで、パルス内で一度だけ瞬間的に電場をかけることが可能になる。この瞬間的にかかる電場の向きを、反転対称性の破れた結合と並行、反平行にかけることで、振動分極から輻射される光のスペクトルが顕著に異なることを、実験的に見出した。このメカニズムを、電子・正孔対の運動を模擬する半古典模型と量子力学に基づく模型で調べた。その結果、分極に現れる反転対称性の破れに起因する成分の存在により得られる特異な分極時間波形からよく理解できることを示した。 前年度に取り組んだ、励起子絶縁体候補物質のTa2NiSe5についての、電子・格子相互作用の第一原理計算について、より詳細な解析を行った。実験的に得られている時間分解光電子分光における格子振動と対応した変調成分、半導体相と半金属相共存における特徴的なスペクトル形状について、対応する原子振動と両相の電子構造の相関を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
電子・正孔対相互作用を取り込んだ理論的枠組みを用いて、計画通り光電場照射下の過渡状態におけるその相互作用の役目を明らかにし、励起後の電子・正孔対のBrillouin域の分布の違いを調査した。 本課題で開発した手法を用いて、実験家と行っている共同研究で対象としている実験系に適用して、そのメカニズムを明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き本課題で開発した理論的枠組みを用いて、様々な固体、レーザー電場に対する励起の様子を調べ、物質に依存した個別のメカニズムの違いの解明と、より統一的な描像の構築、双方に取り組む。 関連した実験家との共同研究を推進する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス蔓延に伴い、予定していた学会講演がオンライン開催となり、予定していた旅費分が不要となったため。
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