2018 Fiscal Year Research-status Report
Nonlocality of shift-current studied by emission of terahertz wave
Project/Area Number |
18K14155
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
五月女 真人 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 特別研究員 (40783999)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | シフト電流 / 光電流 / 光電効果 / テラヘルツ / 超高速分光 / 半導体 / 強誘電体 / 太陽電池 |
Outline of Annual Research Achievements |
光吸収に伴って電流が生じる光電流は太陽電池や光検出器などに広く用いられている物理現象である。そこでは、電子と正孔が粒子として移動するという古典的描像が信じられてきた。しかし最近、電子雲がコヒーレントに瞬時に伝搬する「シフト電流」という光電流の描像が近年の新型太陽電池の基礎であると理論が提唱されはじめた。シフト電流は「瞬時に」単位格子を超えて伝搬する非局在性を持ち、これが高効率性に関連しているという理論が提唱されている。 本研究の目的は、超短パルスレーザー照射による光電流からアンテナ放射される電磁波(テラヘルツ帯)を観測・解析することによって、量子力学的光電流である「シフト電流」がコヒーレントに瞬時に伝搬しているか否かを実験的に検証することである。さらに、シフト電流の伝播距離を定量的に評価し、新型光電変換デバイスへの端緒を開くことを目指した。今年度は、パルス幅100fs, 波長可変450-2500nm、試料温度2-295K, 磁場0-7Tの実験系を構築でき、散乱の影響が極めて少ないと期待される高純度半導体結晶を主な対象とし励起子から吸収端波長での光励起で実験を行った。 半導体では、吸収端よりやや低エネルギーに励起子励起に伴う吸収ピークが現れることが知られている。従来、励起子は「束縛状態」であり熱的電荷分離が起こらなければ光電流にならないと考えられてきた。しかし最近、熱的分離なしに量子力学的に電流を生じうることが提唱されている。励起子シフト電流の観測により、シフト電流の量子力学的起源について知見が得られると期待される。今年度は、励起子光電流のサブピコ秒ダイナミクスを観測し、シフト電流の最新の理論と比較検証した。 そのほか、現象のモデル物質として研究した強誘電体半導体におけるシフト電流ダイナミクスに関連して2論文が採択された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度(初年度)は、フェムト秒パルスレーザー励起の際に放射されるシフト電流からのテラヘルツ電磁波を観測・解析する「テラヘルツ放射分光」により、その光電流ダイナミクスを200fsの時間分解で観測する技術を確立した。時間分解能200fs, 波長可変450-2500nm、試料温度2-295K, 磁場0-7Tの実験系を構築した。波長可変・低温・強磁場印加可能なテラヘルツ放射分光実験系は先例がない。 散乱の影響が極めて少ないと期待される高純度半導体結晶を主な対象とし、さらに光学フォノンによる散乱が小さいと予想される励起子から吸収端波長にかけての光励起でテラヘルツ放射分光の実験を行った。太陽電池材料としても研究されてきた化合物半導体CdSを対象に実験を行った結果、実際に励起子共鳴励起によってテラヘルツ電磁波が発生し、そのダイナミクスや入射偏光・パワー依存性などがシフト電流の最新理論とよく一致することを見出した。散乱時間はこれまでにシフト電流からのテラヘルツ波発生を見出した物質と比べ2倍程度であり、長いコヒーレント伝搬距離をもつことが示唆された。CdSにおける研究成果は論文投稿準備中である。 また、今年度に行った強誘電体半導体SbSI, およびSn2P2S6におけるシフト電流の超高速ダイナミクスの研究成果がProceedings of National Academy of Science誌およびにApplied Physics Letters誌にそれぞれ採択され(査読あり)、国内学会で口頭発表した。また、光デバイスへの応用が期待される有機強誘電体において同様にテラヘルツ波の発生を見出しその発生機構を解明した論文がPhysical Review A誌に採択された(査読あり)。
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Strategy for Future Research Activity |
理論で提唱されているシフト電流の非局在性の研究を、テラヘルツ放射分光光学系の設計を最適化しながら光電流の量子力学的性質が顕在化しやすいと期待される物質で行う。光キャリアの散乱確率が小さい物質でシフト電流の伝播の様子を観測する予定である。シフト電流の振幅・伝播を観測し、テラヘルツ波形からシフト電流のサブピコ秒ダイナミクスを定量的に解析する技術をもちいて、その量子力学的起源や実際の回路電流との関連を明らかにする。シフト電流ダイナミクスの励起波長・レーザー強度・温度・外部磁場依存性を測定する計画である。 束縛エネルギー・散乱レート・波動関数の対称性などが異なる種々の物質を対象とし実験を行う。対象物質は、吸収ピーク線幅から予想される励起子散乱時間が40ps程度と、典型的な半導体の100倍程度に達する酸化物半導体Cu2Oを候補に計画している。また、第一原理計算でシリコン型太陽電池を超える高い非線形光学伝導度(光電変換効率に比例する量)が提唱されているワイル半金属も長い伝搬距離を発現しうる候補である。この物質群は、フェルミエネルギー近傍の状態密度が小さく、電子・電子散乱の影響が小さいことも期待される。 超高速光電流ダイナミクスの観測手法としてのテラヘルツ放射分光を確立するとともに、シフト電流の量子力学的性質を明らかにする方針である。
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Causes of Carryover |
今年度は、低温環境下でテラヘルツ波発生を観測する光学系やパルス幅を圧縮する光学系(NOPA)を構築した。次年度にはこれらの光学系を最適化し、低温環境でシフト電流の伝播距離の定量的評価を可能とする計画である。この実験系は現在改善中であるために、次年度使用額が生じた。本年度の早い時期に、テラヘルツ放射分光の実験系の光学部品や制御機器を購入する予定である。テラヘルツ波の電気光学サンプリング結晶上で検出位置をXYスキャンする自動ステージとその制御機器を購入するために使用する計画である。
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Research Products
(7 results)