2018 Fiscal Year Research-status Report
単結晶氷Ih表面における局所的プロトン秩序化機構の解明
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18K14176
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
野嶋 優妃 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (90756404)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 単結晶氷 / 表面 / 不均一幅 / 振動スペクトル / 理論計算 / 和周波発生分光 / ヘテロダイン検出 |
Outline of Annual Research Achievements |
氷の結晶構造において酸素原子の位置は一意に定まっているが,水素原子(プロトン)の配置はice ruleの範囲内でランダムになっており,氷バルク中の水分子の配向は長距離秩序を持たず統計的である.これは氷のプロトン無秩序性と呼ばれ実験的にも証明されている.しかし,結晶構造が途切れる表面においてもバルクと同様にプロトン配置がランダムであるとは限らない.氷表面にプロトン秩序が存在するならば,例えば氷表面の極性分子に対する吸着活性や不均一触媒活性に大きな影響がある.したがって氷表面におけるプロトン秩序の有無を調べることは重要である.本研究では表面選択的な二次の非線形分光である,和周波発生分光(SFG)を,作製した単結晶氷表面に適用することで,氷表面とバルクの間におけるプロトン秩序の違いを明らかにし,氷表面にプロトン秩序が存在する場合はそれが生じる機構を解明することを目指す. ヘテロダイン検出SFG(HD-SFG)分光によって単結晶氷表面の振動スペクトルを測定した結果,氷表面に水分子がプロトンを空気側に向けたH-upなプロトン秩序が存在することが明らかになった.さらに,氷表面のHD-SFGスペクトルを理論的に計算したところ,H-upのプロトン秩序を仮定した場合のみ実験結果を再現でき,氷表面にプロトン秩序が存在するという主張を強く支持する結果が得られた.また,表面のHD-SFGスペクトルとバルクのラマンスペクトルとの比較から,氷表面の微視的環境はバルクよりも不均一であることがわかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
実験室の空調が故障し,およそ二か月半の間,分光測定や測定に供する単結晶氷の作製ができなかったため,当初の計画と比べ研究の進捗が遅れた.また,クライオスタットを用いた和周波発生分光測定を行うための光学系の構築にも予定より長い期間を要したため,研究の進捗が予定よりも遅れている.
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Strategy for Future Research Activity |
今後はクライオスタットを用いてSFG測定を行うことで,氷表面のプロトン秩序の温度依存性について調べる.氷表面の水分子が再配向することでプロトン秩序が誘起される.水分子が再配向する速度は温度に依存するので,温度依存測定によって氷表面のプロトン秩序化の機構の解明を目指す.温度依存測定に用いる光学系は既に構築済みであり,単結晶氷表面の測定に取り組むための準備は整っている. また,単結晶氷表面に荷電脂質単分子膜を形成し,SFG測定に供する.氷表面の脂質単分子膜の電荷に応じて氷表面の水分子の配向が変化するならば,表面にプロトン秩序を誘起することができる.SFG信号の強度は表面にある分子がより配向するほど大きくなるので,脂質単分子膜の有無による信号強度の変化から,氷表面における水分子の再配向が促進されるか調べる.
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Causes of Carryover |
クライオスタットを用いた単結晶氷表面のSFG測定をまだ行っておらず,測定に供する試料の長期保存の際に必要な液体窒素自動供給装置を購入しなかったため次年度使用額が生じた.平成31年度中にクライオスタットを用いたSFG測定を行い,試料の長期保存の必要性を確認する予備測定を行った後に液体窒素自動供給装置を購入する予定である.
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