2019 Fiscal Year Research-status Report
単結晶氷Ih表面における局所的プロトン秩序化機構の解明
Project/Area Number |
18K14176
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
野嶋 優妃 筑波大学, 数理物質系, 助教 (90756404)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 氷Ih表面 / プロトン秩序 / 和周波発生分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は氷Ih表面のSFGスペクトルの温度依存性を測定するために,クライオスタットを用いたSFG分光計を構築し,氷表面のSFGスペクトルの測定を試みた.クライオスタットを用いた光学系を構築し,77 Kにおける氷表面のSFGスペクトルを測定したが,得られたスペクトルの形状は過去に蓋のないサンプルセルを用いて測定したものと大きく異なっており,氷が赤外光を吸収する波長領域の信号強度が極端に弱くなっていた.クライオスタット内部の光学窓にごく薄い氷の層が形成され,それによって入射赤外光が吸収されるため,氷表面からのSFG信号が極端に弱くなったと考えられる.クライオスタットを真空引きする時間を伸ばしても,窓板による赤外光の吸収の影響を除去できなかった.77 Kよりも高温での測定も試みたが,氷の温度が上昇するにつれて蒸気圧も増加するため,窓板が結露してSFG信号光を検出できなかった.氷Ihのラマンスペクトルの温度依存性をクライオスタットを用いて測定できたので,SFG分光にも適用できると考えていたが,実際には非常に困難であった.氷表面のSFGスペクトルの温度依存性を測定するためには,内窓がないセルを用いる必要があることが明らかになった. 2019年度は本研究に関連した内容について国際会議において4件の招待講演と,1件の口頭発表を行った.また,同位体希釈した氷IhのSFGスペクトルの実験と理論計算に基づく解釈についての論文がChemmical Communicationsに受理され,掲載される予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
氷表面のプロトン秩序の温度依存性について考察するために,クライオスタットを用いた温度依存測定を行うことを計画していたが,クライオスタットを用いた測定では内部の光学窓に氷から生じた水蒸気が結露して和周波光を検出できないことが明らかになった.これまでにクライオスタットを用いて氷Ihのラマンスペクトルの温度依存性を測定した経験があったため,和周波分光にもクライオスタットを適用できると考えていたが,実際に測定を行なってみると,氷の蒸気圧がクライオスタットの測定に用いられる物質と比べて圧倒的に大きいことに由来する問題(光学窓に吸着した氷の薄層による入射赤外光の吸収や温度を上昇させた時の光学窓の結露など)が生じ,温度依存測定を行うことができなかった. 内部の光学窓に吸着した氷による赤外吸収のピーク強度を2とすると,氷の厚みはおよそ4 マイクロメートルと見積もることができる.ラマン分光では赤外光を用いないため4 マイクロメートルというごく薄い氷の層が光学窓に吸着しても何も影響がなかったという可能性もある.
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Strategy for Future Research Activity |
クライオスタット内部の光学窓に氷の薄膜が形成されることは,サンプル室内部の水蒸気分圧が測定温度である77 Kでの飽和水蒸気圧以上であることを意味する.測定前にサンプル室を真空引きしているが,それが不十分な可能性があるので,真空引きの時間を伸ばしてサンプル室内の水蒸気圧を制御する必要がある.また,測定に用いたクライオスタットは内部が二重構造になっており,内部の光学窓は77 Kに冷えた真空槽に接している.これも光学窓表面での氷薄膜の形成の原因の一つであると考えられる.他研究グループで報告された氷表面のSFG分光では,サンプル室の窓は室温の大気と接しており,氷表面と光学窓の間に十分な距離があったため,本研究で観測された問題が生じなかった可能性がある.そこで,二重構造ではない光学セルを新たに作製し,氷表面の温度依存性について調べる予定である.
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Causes of Carryover |
クライオスタットを用いて長時間測定を行うために,液体窒素供給装置の購入を予定していたが,2019年度の研究によってクライオスタットでは氷表面のSFGスペクトルを測定できないことが明らかになり,液体窒素供給装置を購入する必要がなくなった.クライオスタットの代わりに,二重構造でない新たな光学セルを作製する必要が生じたので,次年度に計上した予算はそのセルの作製に使用する予定である.
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