2018 Fiscal Year Research-status Report
フェムト秒電子和周波発生分光によるフォトクロミック界面の光励起ダイナミクスの解明
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18K14180
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
五月女 光 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (60758697)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | フォトクロミック反応 / 電子和周波発生分光 / 光機能界面 / 時間分解分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
フォトクロミック機能界面における光励起ダイナミクスの解明を目的として、フェムト秒時間分解和周波発生分光法を用いた電子状態ダイナミクス研究を推進した。今年度は、フェムト秒時間分解和周波発生(SFG)分光装置の開発と測定対象であるフォトクロミック分子系の選定を行った。Ti:Sapphire再生増幅器の基本波(802 nm)およびそれにより励起された同軸型光パラメトリック増幅器(OPA)の出力(1260 nm)をベースとして計測装置を構築した。具体的には、1260 nmのOPA出力を1 cmセル中の四塩化炭素に集光照射し広帯域な近赤外光パルスを発生させた。種々の発生条件を検討することにより、安定かつ30 mWクラスの広帯域近赤外光を得た。これと802 nmの狭帯域光との和周波を試料界面に集光照射することにより、SFG光を発生させマルチプレックス方式で400-600 nmの可視域においてSFGスペクトルを測定可能なシステムを構築した。発生したSFG光は今年度導入した冷却電荷結合素子(CCD)により検出した。また、併せて計測装置を制御するプログラムをLabVIEWをベースとして作成し、迅速にデータ取得、解析が進められるセットアップを整えた。 一方、試料系については測定中の試料の劣化が問題となることが予想されたため、フォトクロミック分子系の中でも熱的安定性や繰り返し耐久性をもつジアリールエテン誘導体を試料として選定した。様々な誘導体について、耐久性や反応性の予備的な評価を行い、ベンゾチオフェン部位をもつ誘導体と、分子内のチオフェン環が逆さ配置をとっている誘導体の2つが試料として適していると結論した。これら2つの誘導体については、界面におけるダイナミクスの比較対象となりうるバルク溶液系における反応性、ダイナミクス計測も併せて行い、異性化反応ダイナミクスに関する知見を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
電子和周波発生分光装置の開発は申請者にとって新規の試みであったが、研究計画に従い今年度中に微弱なSFG光を検出し計測システムの構築まで漕ぎ着けることができた。特に、この計測手法の鍵となる広帯域近赤外光の発生については、種々の媒質を用い波長域、安定性を入念に検討した結果、四塩化炭素を媒質に用いることで少なくとも1650 nmまでの近赤外域で広帯域光が発生可能であることが分かった。和周波を発生させるために用いる光パルスを長波長化することにより既報の電子SFG分光装置に比べより長波長域で測定可能があり、本研究の対象であるフォトクロミック分子系の吸収帯をあらわに捉えることができる。また、試料系としてジアリールエテン誘導体のうちチオフェン環が逆さ配置であるものについては、液相と結晶相では反応性が大きく異なるため、深さ方向に異方的な界面環境においてどのような反応性を示すかが興味深い分子系として選定した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降、選定したフォトクロミック分子の結晶表面または基板上に配列させた試料系で、定常SFGスペクトルの測定を行う。これらの試料はAFM等の静的な方法でキャラクタリゼーションを行うとともに、得られたスペクトルと溶液中の吸収スペクトルと比較することにより、フォトクロミック分子の置かれた環境に関する知見を得る。また、併せて定常光照射のもとでスペクトル強度の変化を追跡することにより、界面における異性化反応の量子収率を算出する。これらの測定結果より、界面環境や分子配向とフォトクロミック分子系の反応性との間の因果関係を明らかにする。さらに、今年度開発した計測装置に励起光パルスを導入することにより、時間分解測定に着手する。具体的には、フォトクロミック分子系の一方の異性体の吸収帯に共鳴した、別のOPAの出力を励起光パルスとして用いる予定である。これを光学遅延ステージにより遅延をつけ、光励起後任意の遅延時間における電子状態を反映したSFGスペクトルを測定する。
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Research Products
(28 results)