2018 Fiscal Year Research-status Report
テラヘルツ・赤外分光法を用いた水分子の核スピン転換機構の解明
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18K14182
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
山川 紘一郎 学習院大学, 理学部, 助教 (60633279)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 核スピン転換 / テラヘルツ分光 / 赤外分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
キセノンマトリックス中に分離した水分子の赤外吸収スペクトルの時間変化を観測し、転換率の温度依存性を5-10 Kの温度範囲で測定した[山川他, 分子科学討論会, 2018]。同時に、水二量体による吸収ピークが僅かな時間変化を示すことを見出し、二量体中の水分子の核スピン転換を初めて観測した[Yamakawa et al., HRMS, 2018]。アルゴンをマトリックス種に用いた実験では、重水クラスターのテラヘルツ・赤外スペクトルのアニール温度依存性と希釈率を詳細に測定し、マトリックスの効果を取り入れた量子化学計算との比較から、クラスター中の分子間振動モードを決定した[Nasu et al., HRMS, 2018]。水分子と他分子との異種クラスターにおける核スピン転換の測定を見据え、水素[山川他,表面真空学会学術講演会, 2018]、アンモニア[Nagamoto et al., HRMS, 2018]、メタン分子[Sugimoto et al., HRMS, 2018]の転換率を測定した。水素については、分極に由来する赤外吸収を観測するため、希ガスの替わりに二酸化炭素をマトリックス種に用いた。オルソ・パラ水素による微弱な赤外吸収を分離して観測し、その時間変化から転換率を測定した。さらに、吸収ピークの位置から水素が受ける電場の大きさを導出した。また、結晶メタンの赤外スペクトルを測定し、結晶中でほぼ自由回転する分子種による振動回転吸収を検出した。吸収ピーク強度の時間変化を解析したところ、1つの指数関数では再現できず、2つの指数関数の線形結合で表されることを見出した。これは、オルソ・メタ・パラ異性体間の転換に起因しており、このように3種の異性体間の核スピン転換を観測した例は、本研究がはじめてである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画によると、平成30年度は、温度とマトリックス種という条件を変えて水単量体の核スピン転換を測定する予定であった。この計画通り、アルゴン、クリプトン、キセノンという3つの希ガスマトリックス種を用い、水分子の転換率の温度依存性を測定し、そこから核スピン転換におけるエネルギー緩和経路を明らかにした。 さらに、計画以上の成果として、水分子とのファンデアワールス複合体における核スピン転換の研究に必要不可欠である、水素、アンモニア、メタン単量体の核スピン転換率を実験により得た。特にメタンについては、3種の異性体間の転換を世界で初めて観測するという、予期していた以上の成果を挙げることができた。また、当初の計画では平成31年度の研究対象であった水二量体についても、赤外吸収スペクトルの時間変化により転換を観測することに成功した。この成果は、本研究課題の目標である「クラスター中の核スピン転換率の測定」を達成する上で、非常に大きな一歩である。
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Strategy for Future Research Activity |
二酸化炭素マトリックス中に分離した水素分子の核スピン転換を、引き続き測定する。試料の真空蒸着温度とスペクトル測定時の温度を5-10 Kの範囲で系統的に変えることで、水素が受ける電場の大きさを変調し、シュタルク効果が核スピン転換に与える影響を明らかにする。メタン分子については、3種の核スピン転換に伴う2つの転換率の温度依存性を測定し、エネルギー緩和経路を明らかにする。また、測定したスペクトルと置換・反転群に基づく解析を行い、結晶内でのメタンの回転準位を決定する。 水二量体中の転換についても、マトリックス種、同位体置換種、温度を変えて転換率を測定する。また、テラヘルツ分光と赤外分光を同時測定し、転換に伴って生じる水分子の余剰回転エネルギーの散逸先を明らかにする。 水分子と他分子(水素、アンモニア、メタン)との間の異種クラスターの赤外・テラヘルツ吸収スペクトルを測定する。マトリックス効果を取り入れた量子化学計算結果との比較から、クラスターに由来する吸収ピークを特定する。吸収ピークの波数間隔から、クラスターを構成する各分子の回転定数を求める。さらに、スペクトルの時間変化から、各分子の核スピン転換を測定する。転換率の温度依存性から、異種クラスターにおける核スピン転換機構とエネルギー緩和経路を明らかにする。
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Causes of Carryover |
旅費が当初の計画よりも若干抑えられたため、次年度使用額が生じた。平成31年度の使用計画にはほとんど変更はなく、当初の予定通り、成果を発表する国際会議への参加旅費と消耗品費として用いる。
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Research Products
(16 results)
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[Presentation] Far- and mid-infrared spectroscopy of matrix-isolated clusters and matrix-sublimated ice of D2O2018
Author(s)
Nasu, H., Niwata, K., Azuma, Y., Tanaka, T., Arakawa, I., Yamakawa, K.
Organizer
25th International Conference on High Resolution Molecular Spectroscopy
Int'l Joint Research
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