2020 Fiscal Year Research-status Report
余剰の振動エネルギーを持つ中間体の起こすエン反応の反応動力学的解析
Project/Area Number |
18K14205
|
Research Institution | Research Foundation Itsuu Laboratory |
Principal Investigator |
黒内 寛明 公益財団法人乙卯研究所, その他部局等, 研究員(移行) (80814920)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 有機化学 / 分子反応動力学 / 物理化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
有機化学の根幹をなすカノニカル遷移状態理論は、反応する分子の持つエネルギーが溶媒と完全な熱平衡状態にあるという仮定 のもとでのみ成り立つ。しかし 発生直後の活性中間体は激しい振動状態(熱い分子)となっており、より高いエネルギー分布に偏 っている。 その余剰の振動エネルギーが失われる前に次の反応が進行する場合、遷移状態理論が破綻するために従来の理論的枠組みでは選択性の予測・説明が困難である。 当該年度の本研究では、昨年度までの進歩状況の項に書いた理由により、ノルボルネンへ のトリフルオロ酢酸の付加反応の機構を引き続き精査している。本反応は重水素化された酸を用いると旧来の理論では説明できない生成物内の重水素分布を示す。本系においては、反応の途中で一時的に生成した中間体は余剰のエネルギーを有するとともに多数の分子種へと分岐するため、その解析によって化学反応理論の拡張を図った。現在、市販されていないノルボルネ ン誘導体を合成し、その反応性について実験・シミュレーションの双方から詳しい検討を行った。 その結果、予想外なことに、トリフルオロ酢酸がノルボルネン誘導体の炭素ー炭素二重結合をプロトン化するという現象自体が非常に複雑な酸の多量体構造を経由していることが明らかとなってきた。また、反応動力学シミュレーションによって一つの遷移状態がいくつもの生成物に対応する分岐経路をたどることが明らかになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までに報告したノルボルネンへの酸分子付加反応においては更に複数の誘導体を合成し、実験とシミュレーションを行うことでPath-Bifurcationと呼ばれる遷移状態 通過後の経路分岐現象の解析を行った。この結果、シミュレーションの結果が実験結果を定性的に説明することができ、一般的な現象であることを明らかにできた。これらは論文として発表するに十分な新規性をもつ内容である。 一方で、その前段階である二重結合のプロトン化過程に酸の様々な多量体構造が関与しており、予想以上に複雑であることがわかってきており、その複雑な現象の定量的な解析が最後の課題となっている。 上記の理由により、概ね順調に進展しているという自己点検結果を報告したい次第である。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況でも記載したが、ノルボルネン誘導体の二重結合のプロトン化過程において酸の様々な多量体構造が関与しているため、二量体、三量体、四量体などの化学種がどの程度関与しているかを実験によって定量的に突き詰めるのが最後の課題となっている。 現在、核磁気共鳴分光法を用いて酸多量体の構造を解析するとともに、反応速度解析を行うことによって多量体の関与の度合いを詳細に明らかにし、これまでに行った反応動力学シミュレーションと組み合わせて詳細な反応機構を明らかにしてゆく。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルスによるパンデミックの影響で、参加予定であった国際学会をはじめ、多くの学会が中止・またはオンライン開催となり学会参加費が減少した。また、申請者が所属する神奈川県に所在する研究所も度重なる緊急事態宣言の影響で在宅勤務の期間ができ、実験に遅れが生じた。 以上の理由により、次年度使用額が生じることとなった。
|