2018 Fiscal Year Research-status Report
窒素-窒素結合の活性化法の開発とその合成化学的応用
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18K14218
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
阿野 勇介 大阪大学, 工学研究科, 助教 (20736813)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 窒素-窒素結合切断 / 遷移金属触媒 / ヒドラゾン誘導体 |
Outline of Annual Research Achievements |
窒素原子を含む有機化合物は、タンパク質やDNAのような生体内の生命現象を司る生体内化合物や、医農薬などの有用な生理活性化合物として広く利用されているために、有機合成化学において重要な研究課題のひとつとなっている。ヒドラジン(N2H4)は窒素-窒素結合を有する化合物であり、その結合エネルギー(65 kcal/mol)は炭素-炭素結合の結合エネルギー(81 kcal/mol)に比べて小さいことが知られている。しかし、窒素-窒素結合の切断を利用した有機合成反応は、炭素-炭素結合の切断を含む反応に比べて報告例が少ない。 そこで本研究では、含窒素化合物の効率的な合成法の創出を目的として、ヒドラジン誘導体の窒素-窒素結合活性化を利用した新規触媒反応の開発を行っている。今年度は、効率的な窒素-窒素結合切断を実現するためのヒドラジン誘導体の設計、合成および反応性の精査を実施した。窒素-窒素結合の切断が不均一過程で進行することを想定し、一方の窒素原子の求電子性が向上するような分子を設計・合成した。また、ヒドラジン誘導体からの脱水素による窒素-窒素二重結合の形成を抑制する分子設計を実施した。 合成したさまざまなヒドラジン誘導体に対して触媒量の遷移金属錯体を作用させた結果、パラジウム錯体やニッケル錯体を用いた場合において、窒素-窒素結合の切断が進行した生成物が得られた。このとき、イミン構造を有するヒドラゾンを用いた場合に窒素-窒素結合の切断が進行することが明らかになった。また、その検討過程で、ヒドラゾンの窒素-窒素結合の切断を経てニトリル化合物が得られることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画で示した設計指針に基づいて、さまざまな四置換ヒドラジン誘導体の合成に成功した。得られたヒドラジン誘導体に対して、遷移金属錯体や金属酸化剤などを作用させたところ、パラジウム錯体やニッケル錯体を用いた際に、ヒドラジンのアミン部分が組み換わった生成物などの窒素-窒素結合切断生成物が得られた。つづいて、これらの錯体を用いてヒドラジン基質の構造的要件についてさらに精査したところ、ヒドラジン窒素の一方がフタルイミド構造であるヒドラジンを用いると、窒素-窒素結合の切断が効率的に進行することが明らかになった。また、金属錯体触媒についても精査を行ったところ、高い電子供与能を有するN-ヘテロ環状カルベン配位子が窒素-窒素結合切断に有効であることがわかった。 上述の検討結果から、N-ヘテロ環状カルベン配位子を有するパラジウム錯体やニッケル錯体を触媒に用いて、アルケン類のジアミノ化反応を検討した。ジアミノ化反応剤として、アルデヒド由来のイミン構造とフタルイミド構造を有するヒドラジン誘導体を用いたところ、目的とするジアミノ化生成物のかわりに、ニトリル生成物が得られた。この生成物は、ヒドラジン誘導体の窒素-窒素結合切断とフタルイミドの脱離によって生成したと考えられる。また、アルケン非存在下でも得られることを確認しており、本反応はヒドラジン誘導体からの形式的なフタルイミドの脱離反応であると考えられる。なお、類似の反応として、化学量論量のロジウム錯体による、ヒドラジンとベンズアルデヒドから調製されるアジンを用いたニトリル合成反応が報告されている。今回得られた結果は、窒素-窒素結合切断を含む新しい有機合成反応であることから、より詳細に検討する計画である。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に得られた、ヒドラジン反応剤の構造的要因に関する知見をふまえて、窒素-窒素結合切断に適した反応剤の設計・合成を引き続き行う。また、すでに窒素-窒素結合の切断が進行することが明らかになっている反応剤については、理論化学計算を用いてその電子的・立体的性質について精査し、反応機構の詳細を明らかにすることを目指す。特に、基底状態の分子軌道や窒素-窒素結合切断の際の遷移状態構造について詳しく調査する。 また、前年度に新たに見出したニトリル合成反応に関して、基質適用範囲や反応機構解析を行う計画である。現在、芳香族および脂肪族アルデヒド由来のヒドラゾン誘導体が適用できることを明らかにしているが、ケトン由来のヒドラゾン誘導体についても研究を進めている。 前年度の研究からフタルイミド構造が効率的な窒素-窒素結合の切断に有効であることが示されたが、脱離生成物であるフタルイミドが安定であるために反応性が乏しく、ジアミノ化反応への展開には至っていない。そこで、フタルイミドと同様の脱離能を有するとともにアミノ化反応剤としても作用しうる分子構造の探索を継続して行う。これまでは窒素-窒素結合の切断過程が不均一開裂に基づくものとして分子設計を行っていたが、均一開裂を想定した分子設計も併せて実施する計画である。
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Research Products
(1 results)