2018 Fiscal Year Research-status Report
直鎖型六座配位単核錯体の光誘起高スピン相からの緩和温度と熱的スピン転移温度の相関
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18K14240
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
萩原 宏明 岐阜大学, 教育学部, 助教 (20706973)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 直鎖型六座配位子 / スピンクロスオーバー / LIESST / 熱緩和 / 1,2,3-トリアゾール / 金属錯体 / 光応答 / 光スイッチング |
Outline of Annual Research Achievements |
電子デバイスの高密度化、小型化への要請は現代においても留まることはなく、1つの小分子がスイッチング、メモリー機能を有するナノスケール分子素子の開発が注目されている。本研究課題では、そのような分子メモリー素子の候補物質であり、磁気的スイッチングを示す単核スピンクロスオーバー(SCO)錯体を対象に、低温化で光により誘起される準安定高スピン状態の低スピン状態への熱緩和を抑制し、熱緩和温度T(LIESST) を室温に近づける分子設計方策を示すことを目標としている。具体的には、2005年に報告された熱的スピン転移温度T1/2とT(LIESST)の反比例相関T(LIESST)=T0-0.3×T1/2において、中心の鉄(II)イオンを取り囲む直鎖型多座配位子が単座→二座→三座→四座となるにつれて、配位様式に依存する定数T0が高くなる傾向に着目し、最高次の直鎖型六座配位環境をもつ単核SCO分子群について上記相関が成り立つなら、T0の最高温度を更新できることを明らかにする。 初年度は、1-Ph-1H-1,2,3-トリアゾール骨格を有する直鎖型六座配位子鉄(II)錯体[FeL3-2-3Ph](AsF6)2について、小型レーザーを用いた光照射実験手法を確立し、LIESST特性評価を完了した。具体的には、レーザー出力と波長の最適化を行い、波長635nmにて最も効率良く光変換を示すことを明らかにした。また、直鎖型錯体との比較に重要な三脚型六座配位錯体[FeLR](NTf2)2 についても、置換基Rの異なる5種類の錯体の光実験を行い、最適波長532nmを明らかにし、T(LIESST)の評価を終えた。最後に、基盤錯体[FeL3-2-3Ph](AsF6)2の誘導体として置換基や対アニオン、アルキル鎖長の組み合わせの異なる複数の誘導体の結晶化に成功し、全てT1/2の異なるSCOを示すことも明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の計画として、(1) 小型レーザーを光源に用いたLIESST評価手法の確立、(2) 基盤となる直鎖型六座配位子鉄(II)錯体の光照射実験の完了、(3) 比較対象となる5つの三脚型六座配位子鉄(II)錯体の光照射実験の完了、(4) 基盤錯体の置換基変換によるT1/2の異なる誘導体の結晶化、及びそれらの物性・構造評価の4つの検討を行うことになっており、予定していた項目を進めることができたため「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的には、当初の研究実施計画に沿ってT1/2の異なる誘導体の合成を進め、それらの熱的SCO特性の測定、結晶構造解析、LIESST特性の評価を順次進めていく。初年度の誘導体合成により、基盤錯体の置換基をフェニル基からpトリル基、対アニオンをAsF6からPF6としていくことでT1/2が下がる傾向や、結晶溶媒の脱離によりT1/2を100 K程低温シフトさせられることがわかってきたが、室温近傍より低いT1/2の錯体は得られていない。そこで次年度は、引き続き置換基変換やアニオン交換による誘導体合成を進めつつ、さらなる分子修飾の可能性として、直鎖型六座配位子骨格中の2級アミンのアルキル化についても基礎検討を始める。また、直鎖型六座配位子錯体系のLIESSTには長時間の光照射を要することもわかってきたので、誘導体の光照射実験については、基盤錯体の最適波長である635nmのレーザーを用いた検討から優先的に進めることとする。なお、平成30年度に得られた研究成果については、次年度中に論文にまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
当初の計画以上に消耗品費や機器分析費用が必要となったため、測定や学会用の旅費部分をそれらに充てたが、結果的に年度末に3万円程残ることとなった。次年度は追加の合成検討項目(2級アミン部位のアルキル化)を予定しているため、繰り越し分は試薬類を中心とした消耗品の購入費用として使用予定である。
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Research Products
(4 results)