2019 Fiscal Year Research-status Report
直鎖型六座配位単核錯体の光誘起高スピン相からの緩和温度と熱的スピン転移温度の相関
Project/Area Number |
18K14240
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
萩原 宏明 岐阜大学, 教育学部, 准教授 (20706973)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | スピンクロスオーバー / LIESST / 熱緩和 / 光応答 / 光スイッチング / 直鎖型六座配位子 / 1,2,3-トリアゾール / 金属錯体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、分子メモリー素子の候補物質である単核スピンクロスオーバー(SCO)錯体を対象に、低温下で光により誘起される準安定高スピン状態からの低スピン状態への熱緩和を抑制し、熱緩和温度T(LIESST) を室温に近づける分子設計方策を示すことを目的とする。 具体的には、Le'tardらにより示された熱的スピン転移温度T1/2とT(LIESST)の反比例相関T(LIESST)=T0-0.3×T1/2において、中心の鉄(II)イオンを取り囲む直鎖型多座配位子が単座→二座→三座→四座となるにつれてT0が高くなる傾向(100→120→150→180K)に着目し、直鎖型六座配位環境をもつ単核鉄(II)SCO分子群について上記相関が成り立つなら、T0の最高温度を更新できることを明らかにする。 直鎖型錯体との比較対象である三脚型六座配位子錯体については、T1/2の異なる3つの錯体の光照射実験からT0=160Kが得られ、三脚系においても比較的高いT0値を示すことを明らかにした。これらの錯体について光実験以外のデータ取得も完了し、論文執筆も概ね終えたため、令和2年度に投稿する。 また、合成を継続している直鎖型六座配位子錯体[FeL3-2-3Ph](AsF6)2の誘導体については、結晶化しないもの、SCOせずに高温で熱分解するものを除き、置換基、直鎖アルキル鎖、対アニオン、及び結晶溶媒の異なる計7種類の結晶化に成功した。これらは全てT1/2の異なるSCOを示すが、その範囲は室温以上の315-502Kにあり、本配位子系の強い配位子場形成能が明らかになってきた。そこで、配位子場を弱めT1/2を下げる狙いから、直鎖型五座配位子錯体の合成も並行して進めたところ、400K付近でSCOを示す鉄(II)錯体の合成に成功し、論文発表に至った。さらに、本錯体の分子修飾によりT1/2が180Kまで下がった錯体も得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
誘導体合成については、主な置換基、対アニオン、結晶溶媒の検討を終え、結晶化しないものやSCOする前に高温で熱分解するもの以外の錯体についてT1/2や結晶構造を決定できており、一定の進捗があった。 一方で、令和元年度に複数の誘導体について光照射実験を進める予定であったが、10K下での長時間の光照射中に測定装置のリークの影響を受け、低温領域からの昇温による熱緩和測定時に大きなノイズを生じてしまうことが判明した。ノイズの原因調査からリーク対策までに時間を要し、光照射実験については1種類の誘導体の予備的な検討のみしか行うことができなかったため「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
室温より低いT1/2の誘導体は得られていないが、置換基変換、配位子骨格の修飾、対アニオンや結晶溶媒の変換により、180K程の温度範囲でT1/2を調節することに成功しているため、令和二年度は遅れているこれらの誘導体の光照射実験を進める。なお、これら誘導体のT1/2が室温以上に高いことは、低スピン状態が非常に安定であることを示しており、準安定高スピン状態への変換に長時間の光照射を要する可能性が高い。そこで、光照射効率を上げるためサンプル調整法を一部改良するとともに、T1/2が低い誘導体から優先的に実験を進めることにより研究の推進を図る。 また、直鎖型六座配位子が強い配位子場を生むことから、配位子の基本骨格を維持しつつ室温以下へT1/2を下げるのは困難であることが見えてきたため、令和元年度より計画を一部変更し、Le'tardらの報告に含まれない直鎖型五座配位子と単座配位子からなる六配位鉄(II)錯体の合成も並行して進めてきている。既に五座配位子系においてもSCO錯体を得られており、狙い通り配位子場を弱めT1/2を180Kまで下げることに成功しているため、引き続き五座配位子錯体の誘導体合成を進めT1/2の調節を目指す。 最終的には、五座配位子錯体のLIESST評価も進め、室温以上、室温以下の両温度範囲のT1/2を含む高次多座配位子系錯体のSCO特性を総合的に検証し、未解明の直鎖型五座・六座配位子系鉄(II)SCO錯体のT(LIESST)とT1/2の関係性を明らかにする。
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Research Products
(4 results)