2019 Fiscal Year Research-status Report
流入起源の懸濁態リンが湖内水質に与える影響に関する研究
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18K14262
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
江川 美千子 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 助手 (20565882)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 汽水湖宍道湖 / 無機態リン / 斐伊川 / 湖底堆積物 / リンの溶出 / 硫化水素 |
Outline of Annual Research Achievements |
汽水湖宍道湖では、時折アオコが発生するが、その主要因の一つにリン濃度の増加が挙げられ、特に湖底堆積物からの溶出の寄与が大きいものと予想される。本研究の目的は、新規に開発した分画定量法(江川ら、2017年)を活用し、これまで誰も成しえなかった汽水湖における湖底堆積物からのリンの溶出機構を解明することにある。 2019年は、宍道湖湖底堆積物(表層0~2㎝)の調査地点を3地点から5地点に増やし、5月から12月まで月1回の頻度で調査を行なった。また、出水時に斐伊川から宍道湖に流入する懸濁態リンの分画定量を行ない、各無機態リン(Fe型リン,Al型リン,Ca型リン)濃度および各々の存在割合を調べた。さらに室内実験により、宍道湖湖底堆積物および脱酸素湖水を用いて夏季の湖底を再現し、各無機態リン、硫化水素およびpHの経日変化を追跡し検討した。以下に主な研究成果の概要を示す。 斐伊川下流の神立橋付近で、出水時に河川濁水を採水し、ろ過後乾燥させた試料を用いて分画定量を行なったところ、Fe型リンの割合が、7月19日採水時は全体の約51%、8月29日は約53%、12月18日は約65%を占め、Al型リンやCa型リンに比べて高いことを見出した。宍道湖では、8月から10月にかけて湖底で5~47 mgS/L硫化水素が生成・蓄積した。Fe型リンに着目すると、10月は調査前日に降雨量6㎜/hが観測され、斐伊川から流入した懸濁態リンのうち、とくにFe型リンの濃度が宍道湖西端で高い傾向を示した。 また、夏季の湖底を再現した室内実験による検討では、還元的環境の進行に付随した硫化水素発生に伴い、溶存態リンの増加およびFe型リンの減少が確認された。一方、Al型リンおよびCa型リンの変動は見られなかった。 以上のことから、出水時に流入する懸濁態リンの内、とくにFe型リンが宍道湖湖底からのリンの溶出に寄与することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでのところ、下記のように当初計画通り順調に進んでいる。 I. 2019年は宍道湖5地点を対象に月ごとに定期調査を実施すると共に、季節ごとに斐伊川上流から下流の河床堆積物中の形態別無機態リンの分画定量を行ってきた。加えて、斐伊川下流域および斐伊川支川について、出水時の濁水を採水し、懸濁態リンの分画定量を行うことで、前述したように斐伊川下流の神立橋付近で、Fe型リンの割合が、全体の約51%~65%を占め、Al型リンやCa型リンに比べて高いことを見出している。また、斐伊川中流に位置する支川の赤川のFe型リンが他の支川に比べ著しく高いことも見出している。 II. 宍道湖湖底堆積物および脱酸素湖水をガラスシリンジに入れ、シリンジ内を小宍道湖と見立てて夏季の湖底を再現し、各無機態リン、硫化水素およびpHの経日変化を追跡するという室内実験により、前述したように、Al型リンおよびCa型リンの変動は見られなかったのに対し、還元的環境の進行による硫化水素の発生に伴い、溶存態リンの増加と共にFe型リンが減少することを見出している。これにより、宍道湖におけるリン酸塩の負荷は、汽水湖特有の底層における還元的環境下での硫化水素生成に伴うものであり、Fe型リンとの反応に起因するリン酸イオンの溶出が大きく関与していることを明らかにしている。本結果は、汽水湖の湖底堆積物からのリンの溶出機構の解明に資するものと考えられる。 III. 吸光光度法による新規なFe(III)直接定量法を開発した。これは、塩化物イオン存在下でFe(Ⅲ)にN-1-ナフチルエチレンジアミン(NEDA)溶液を添加すると、キレート化合物を生成し黄色に呈色 (462 nm)することを利用した方法である。本法を淡水や汽水の水試料、および河床堆積物に適用したところ,精度,回収率ともに良好な結果が得られ有用性を示した。「環境水及び河床堆積物中三価鉄の直接吸光光度定量法」を学術誌に投稿準備中。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目に引き続き、宍道湖湖底表層堆積物について5地点を対象に、また湖心については鉛直的にも調査し各無機態リン濃度の実態を把握する。基礎データとして底層の環境要因(水温、塩分、溶存酸素、ORP、pH、硫化水素)を経月的に調査するともに、出水時前後にも調査を実施し変動要因の解析に資する。とくに、夏季には湖底堆積物中で高濃度の硫化水素が生成・蓄積することから宍道湖湖水へのリン負荷の寄与はFe型リン起源が大きいと考えられるため、その挙動に着目し調査研究を遂行する。 出水時の斐伊川濁水(斐伊川中流~最下流)を地点ごとに採水し、懸濁態リン中の無機態リンの分画定量を行い検討する。さらに斐伊川中流に位置する赤川は、Fe型リンが他の支川に比べて高いことが2019年の調査により明らかになったことから、土壌特性も含め引き続き調査を行うとともに、新規に開発した吸光光度法によるFe(III)の直接定量法を用い、赤川河床堆積物中Fe(III)についても検討する。 宍道湖湖底堆積物中の無機態リンの形態別リンの分布特性を明らかにするとともに、Fe型リンの起源や挙動をさらに究明することで溶出プロセスを解明し、新たなリン循環モデルの構築に資する。
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