2018 Fiscal Year Research-status Report
Synthesis of artificial spider silk with thermal processability
Project/Area Number |
18K14290
|
Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
矢澤 健二郎 信州大学, 学術研究院繊維学系, 助教 (70726596)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 湿式紡糸 / クモ糸の階層構造 / 非晶 / 結晶 / 配向性 / 融点 / 溶融紡糸 / シルクフィブロイン |
Outline of Annual Research Achievements |
クモの命綱である牽引糸やカイコが紡ぐ繭に代表されるシルクは、軽量でありながら、既存の高強度繊維を凌駕するタフネスを有し、低細胞毒性、生分解性を有するため、従来の石油由来の材料では実現できない、新規構造材料として利用できる可能性を秘めている。しかしながら、シルクは、衣類や手術用縫合糸などの限られた用途に使用されるに留まっている。この理由には、コスト的な問題の他に、シルクが、一般的な高分子材料とは異なり、融点を示さずに熱分解してしまうため、成形加工が困難であることが挙げられる。そこで、本研究では、融点を有する人工クモ糸シルクを合成することを目的としている。 当該年度は、(1)シルクタンパク質溶液の紡糸方法の検討、(2)天然クモ糸の階層構造が構造・力学物性に与える影響について評価を行った。 シルクタンパク質の紡糸方法は、タンパク質溶液を凝固浴中で固化した後に、巻き取りを行う湿式紡糸法を採用し、凝固浴中での結晶化速度と巻き取り過程での配向化の相関について、詳細に調べた。その結果、凝固浴中において、非晶状態で固化させておき、巻き取りの過程で結晶化と配向化を同時に誘起することが、天然シルク繊維に近い配向度を達成する上で重要であり、高タフネスのシルク繊維の創成につながることを見出した。 また、天然クモ糸の表面のスキン層はクモ糸の構造・力学物性には影響をほとんど及ぼさないものの、タンパク質分解酵素などの外的因子から中心部のコア層を保護するために重要であることが分かった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
融点を持つ人工クモ糸繊維を創製するには、クモ糸シルクタンパク質溶液を紡糸する必要がある。また、単に人工シルク糸を作成するだけでは不十分であり、天然のクモ糸に見られるような、中心部のコア層から、表面のスキン層にわたる階層構造を再現することが重要である。 当該年度の研究において、シルクタンパク質溶液を固化させた後に糸の巻き取りを行うことで、巻き取り速度を速くすると高強度の糸が得られた一方で、巻き取り速度を遅くすると高延伸度の糸が得られたことから、巻き取り速度を変化させることで、種々の強度と延伸度を有する人工シルクを作成可能であると期待される。 また、天然クモ糸の表面のスキン層が、タンパク質分解酵素などの外的因子から中心部のコア層を保護する役割を有していたことから、人工シルク糸の表面スキン層の厚みを調整することで、種々の生分解速度を有する繊維を作成可能であることが期待される。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方針について、天然クモ糸シルクと同等の分子量を有する人工シルクタンパク質を合成することが重要である。酵素を用いて、生体の体液組成に近い緩衝液中でアミノ酸モノマーを重合させているため、重合の進行に伴い、ペプチドの溶解性が低下し、沈殿として生じるため、得られるペプチドの重合度が制限されてしまう。そこで、酵素重合後に重縮合を行うことで、高分子量のポリペプチドを合成する。 さらに得られるポリペプチドの融解温度が、導入するナイロンモノマーの炭素鎖の長さによって制御できると考えられるので、ナイロンモノマーの炭素鎖の長さと融解温度の関係性について精査する。 また、合成された人工クモ糸様シルクを融解させた後、溶融紡糸を行う過程について、巻き取り速度と糸の構造・力学物性の相関について調べる。
|
Causes of Carryover |
アミノ酸モノマーを用いて酵素重合を行う際に、大スケールでの反応を行う前の準備段階として、小スケールでの酵素重合反応を複数回行い、反応条件検討を行ったため、予定よりもアミノ酸モノマーの必要量が減ったことで、使用額が減少した。翌年度の使用計画としては、酵素重合反応のための緩衝液の作成や、種々の長さの炭素鎖を有する非天然アミノ酸(ナイロンモノマー)を使用した酵素重合反応を計画している。
|
Research Products
(5 results)