2019 Fiscal Year Research-status Report
食品の品質推定における人工知能の活用 -食感と抗肥満性の予測-
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18K14421
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小川 剛伸 京都大学, 農学研究科, 助教 (10793359)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 食感 / 人工知能 / 微細構造 / イメージング / 麺 / 透明化 |
Outline of Annual Research Achievements |
既存の食品製造工業では、多くの場合、経験的な知見をもとに試行錯誤的に加工方法・条件を決めてきた。近年、加工食品に対して、喫食時の五感での受感(美味しさ)のみならず、保健のための生理機能性が求められている。研究代表者は、加工食品に応じた食品素材、加工方法・条件を論理的に決め、喫食時の受感や生理機能性等を含む品質を自在に制御できる学術的手法の確立を最終的に目指している。そこで本研究では、麺を対象試料として、加工食品内部の微細構造から、喫食時の食感および抗肥満性等を予測可能にするための基盤の形成を目的とした。 2018年度までに、人工知能(AI)を用いることで、麺の3次元微細構造から食感を予測できることを示した。2019年度は、マウスを用いた抗肥満性の評価およびAIの学習した内容の解析を行った。特に、AIが学習した内容を解析する際には、パソコンのソフトウェアを用いて、3次元微細構造を可視化する技術が鍵となる。そこで、研究代表者らがこれまでに確立した透明蛍光化法に最適なレンダリングアルゴリズムを開発した。これにより、AIが食感を予測するうえで強く認識した3次元微細構造の特徴を把握できるようになった。従来の人間による推定では、種々の3次元微細構造のうち、特に太さや複雑さが着目されてきており、確かにAIにおいても、非常に多くの領域においてそのような構造を認識していることが認められた。一方で、それ以外の領域についても強く認識していることを見出した。これらの結果は、推察の域を出ていない「食感を生み出す食品内部の特徴的な構造」の特定に定量性の付与が可能であることを示唆する。また、前述の透明蛍光化法を改良することで、米粒内部のタンパク質の3次元計測に成功した。本成果は、日本食品科学工学会第66回大会・第15回若手の会で学生が発表して、優秀賞を受賞した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、3次元微細構造を可視化するために、研究代表者らがこれまでに確立した透明蛍光化法に最適なレンダリングアルゴリズムの開発を重点的に実施した。まず、昨年度までに得られている麺の3次元微細構造のデータに加えて、より解像度の高い画像データを得るために、内部のタンパク質を蛍光標識した麺試料について、SoROCS溶液を用いて透明化した後、2光子励起顕微鏡・ライトシート顕微鏡・共焦点顕微鏡を用いて3次元計測した。次に、これらの3次元画像データを直方体のポリゴンにテクスチャーマッピングすることで、ソフトウェア上で画像データを表示できるようにした。その後、この直方体にアルファブレンディングを適用して、さらに、直方体のポリゴン内部の透過度を調整するアルゴリズムを追加することで、透明蛍光化法で計測した麺について、その微細で複雑な形状の構造をソフトウェア上でレンダリングできるようにした。これにより、AIが食感を予測するうえで強く認識した3次元微細構造の特徴を把握できるようになった。さらに、AIが学習した内容を解析した結果、3次元微細構造がハニカム状から塊状に変化する領域においては、高い予測精度が得られていることがわかった。一方で、ハニカム状あるいは塊状の構造の大きさのみが変化する領域においては、予測精度が低くなる傾向が認められた。特に、前者の領域は、実際の麺やパン等の生地中で形成される構造であるため、類似構造を有する新たな麺試料を調製して、3次元微細構造と食感をセットにして、AIに再学習させた。その結果、学習させるデータの量と質が増えたこともあり、AIによる予測精度を向上させることができた。このように、当初の研究実施計画にもとづき、順調に研究を進展することができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
加工方法および条件が3次元微細構造に及ぼす影響を明らかにするために、製麺過程における生地について、3次元微細構造を計測する。その際、グルテンが十分に形成できていない試料については、これまでのように透明化液に浸漬すると分散してしまい、2光子励起顕微鏡での観察が非常に困難になることが予想される。そのため、新たに固定化法を検討して、不安定な状態における試料についても、計測するための方法を開発する。また、「食感を生み出す食品内部の特徴的な構造」の特定に向けて、AIが強く認識している微細構造をもとに相同性解析を行う。これらを統合することで、当初の目的の達成を目指す。
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Research Products
(4 results)