2018 Fiscal Year Research-status Report
過剰なトリプトファンに特異的な細胞応答システムの解析
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18K14432
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
大橋 一登 群馬大学, 生体調節研究所, 助教 (30775862)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | トリプトファン / アミノ酸 / 出芽酵母 |
Outline of Annual Research Achievements |
トリプトファン (Trp) は、生体に欠かせないアミノ酸の一つであるが、過剰なTrpの蓄積は様々な病態との関連が示唆されている。しかし、過剰なTrpに対する細胞応答はよくわかっておらず、病態などを理解するうえでも、基礎的な知見が不足している。 本助成金申請時に研究代表者は簡便な真核生物のモデル細胞である出芽酵母を用いて、過剰なTrpへの耐性に2つのオートファジー関連遺伝子が必要であることを見出していた。その後、さらにいくつかのオートファジー関連遺伝子が過剰なTrpへの耐性に必要であることも見出した。しかし、当初期待していた過剰なTrpによるオートファジーの活性化はほとんど認められなかったことから、恒常的なオートファジーが過剰なTrpへの耐性に必要であることが示唆された。オートファジーはタンパク質を分解し、アミノ酸を再利用する機構であることを考えると、過剰なTrpへの耐性にはアミノ酸代謝が重要であることが予想された。オートファジーの活性化が認められなかったことは、当初予想した結果とは異なっていたことから、実験計画の順序を変更し、過剰なTrpへの応答に必要な遺伝子のスクリーニングを行った。その結果からも、一部のアミノ酸代謝系が過剰なTrpへの耐性に必要であることが明らかになった。また、過剰なTrpにより誘導される遺伝子のRNAシーケンス解析を行ったところ、いくつかのアミノ酸代謝酵素遺伝子の発現が変動していることも確認できた。さらに得られた結果を統合的に解析し、Trpへの応答に必要な細胞内シグナル伝達を担うタンパク質の同定に成功した。今後はこのタンパク質に着目し、Trpへの細胞応答の仕組みを明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初期待していた過剰なTrpによるオートファジーの活性化はほとんど認められなかったが、過剰なTrpへの耐性にいくつかのオートファジー遺伝子が必要であった。オートファジーはタンパク質を分解し、アミノ酸を再利用する機構であることを考えると、過剰なTrpへの耐性にはアミノ酸代謝が重要であることが予想された。しかし、オートファジーの活性化が認められなかったことは、当初予想した結果とは異なっていたことから、実験計画の順序を変更し、過剰なTrpにより誘導される遺伝子のRNAシーケンス解析を行った。その結果、Trpの分解酵素やアミノ酸生合成酵素の発現が変動していることが明らかになり、過剰なTrpへの耐性にアミノ酸代謝が重要であることが確認された。また、この結果から、過剰なTrpの分解反応とその反応に必要となる有機酸の供給が活性化していると考えられた。すなわち、これらの結果は、過剰なTrpの蓄積を解消する機構の存在を示唆している。そこで、予定通りに、過剰なTrpを認識する仕組みを明らかにするため、過剰なTrpへの応答に必要な遺伝子をスクリーニングによって同定した。さらに、RNAシーケンスの結果を用いて、Trpへの応答に必要な細胞内シグナル伝達を担うタンパク質を絞り込み、そのタンパク質のリン酸化シグナルを生化学的に確認することに成功した。このように、予定していた通りの実験を遂行できた。一部の結果は予想外であったが、順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究では、遺伝子スクリーニングとRNAシーケンスにより、過剰なTrpへの応答に必要な細胞内シグナル伝達を担うタンパク質を同定できた。実際、過剰なTrpによって、このシグナルタンパク質のリン酸化が変化していることも生化学的に明らかにしている。一方で、この細胞内シグナル伝達の下流ではいくつかのアミノ酸代謝酵素の転写が制御されることも知られている。この事実はRNAシーケンスの結果とも一致しており、このシグナル伝達経路が過剰なTrpへの細胞応答に重要であると考えられる。このリン酸化シグナル伝達の欠損株は過剰なTrpに感受性を示すと考えられる。なお、遺伝子スクリーニングにより、過剰なTrpに感受性を示す遺伝子欠損株を既に同定している。今後は、リン酸化シグナルを指標に、このリン酸化シグナルが消失する遺伝子欠損株を探索し、リン酸化シグナルの上流因子を特定する。なお、これらの上流因子には過剰なTrpを認識する分子が含まれると予想されるので、過剰なTrpがどのように認識されているのかが明らかになると期待される。
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