2019 Fiscal Year Research-status Report
機能未知の細胞質局在型アイソフォームを利用した新奇育種技術の開発
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18K14444
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
牛島 智一 九州大学, 農学研究院, 特任助教 (50815058)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 転写開始点選択 / 遺伝子発現制御 / 環境シグナル伝達 / フィトクロム / 光環境応答 / 光受容体 / タンパク質局在 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は最近、植物の主要な光受容体であるフィトクロムが、シロイヌナズナにおいて2,000を超える遺伝子に直接働きかけ、それらの転写開始点を変化させることで、mRNAの5’末端の長さを制御し、その結果、およそ400ものタンパク質の細胞内局在が光依存的に変化することを発見した (Ushijima et al., Cell, 2017)。これらの標的はいずれも、これまで特定の細胞内小器官にしか局在しないと考えられていたタンパク質であるが、当該制御によりN末端のシグナル配列が失われることで、機能未知の細胞質局在型アイソフォームが出現し、それらが様々な光環境への植物の適応に働くことを明らかにした。 そこで本研究では、光依存的な転写開始点変化によって生じる細胞質局在型アイソフォームの機能をイネで網羅的に解析し、その中から育種に利用可能な機能を持つものを同定することで、細胞質局在型アイソフォームを利用した新奇育種技術の開発を目指している。 昨年度は、我々がシロイヌナズナにおいて発見した光依存的な転写開始点制御が、実用植物であるイネとトマトにおいても存在することを検証するため、イネおよびトマトの芽生えを暗所で生育させた後、連続赤色光を3時間照射したサンプルと、そのまま暗所で生育させたサンプルからそれぞれ抽出したRNAを用い、次世代シーケンサーによる転写開始点解析(TSS-seq解析)を行い、赤色光依存的な転写開始点変化を解析するのに十分な品質のデータを得た。 そこで当該年度では、得られたTSS-seqデータを用いて解析を行い、イネやトマトにおいても光依存的な転写開始点制御が存在することを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々がシロイヌナズナにおいて発見した光依存的な転写開始点制御が、実用植物であるイネとトマトにおいても存在することを検証するため、イネおよびトマトの芽生えを暗所で生育させた後、連続赤色光を3時間照射したサンプルと、そのまま暗所で生育させたサンプルからそれぞれ抽出したRNAを用い、次世代シーケンサーによる転写開始点解析(TSS-seq解析)を行い、光条件に応じた転写開始点の変化を解析するために十分な品質のデータを得た。 転写開始点は、植物の形態変化に伴って大きく変化することが知られている(Mejia-Guerraetal.,2015)。そして植物の形態は、光シグナルの有無によって劇的に変化する。そこで本研究では、黄化芽生えに連続赤色光を3時間のみ照射することで、形態変化を引き起こすことなく、光シグナルのみに依存した転写開始点変化を解析することを可能にしている。しかし、標的遺伝子の中には、転写開始点変化の光応答性が遅く、3時間の赤色光照射ではごく僅かな変化しか示さないものも存在すると考えられる。そこで、そのような遺伝子についても同定を可能にするために、連続赤色光下で生育し続けたサンプルも用意し、RNAを抽出し、TSS-seq解析を行い、転写開始点の変化を解析するために十分な品質のデータを得た。 そこで当該年度では、得られたTSS-seqデータを用いて解析を行い、イネやトマトにおいても光依存的な転写開始点制御が存在することを明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
イネおよびトマトにおいて赤色光依存的な転写開始点変化を示す遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列が変化するかどうかを解析する。また生じたアミノ酸配列の変化によって、タンパク質の細胞内局在変化が予測されるかどうかを解析する。そしてそれらの結果を、シロイヌナズナにおいて既に得られている結果(Ushijimaetal.,Cell,2017)と比較することで、光依存的な転写開始点制御が植物において普遍的な現象であることを検証する。光依存的な転写開始点変化によって、コードするタンパク質のN末端のアミノ酸配列変化を示すことが判明した全ての遺伝子について、短い転写産物由来のcDNAを、形質転換イネにおいて過剰発現させ、細胞質局在型アイソフォームの機能を網羅的に解析するためのベクターを構築する。導入する短いcDNAに対して、GFPタンパク質が融合されるようにベクターを構築する。これは、結合したGFPタンパク質を利用して、蛍光観察や抗GFP抗体を用いたウエスタンブロット分析を行うことで、導入遺伝子に由来するタンパク質の蓄積確認や定量が可能となるためである。また、候補となる遺伝子は1,000を超えると考えられる。そこで、ベクターの構築については、in-fusion技術を利用して、相同組換えで導入することにより、ハイスループットのベクター構築を可能にする。また、上記のプラスミドを個々に導入したアグロバクテリウムを、試験管で小規模培養した後、それらの培養液を混ぜ合わせたものを用いて形質転換を行うことにより、細胞質局在型アイソフォームの網羅的な機能解析を効率的に行う。
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Causes of Carryover |
データ解析を主に進めたため、試薬の購入費が予定よりも少なくなった。次年度は主に得られた解析データの検証を行うため5'RACEによる解析や形質転換体を作製した遺伝子機能の解析を行うため、実験試薬や植物栽培用の資材の購入費に使用する。
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Research Products
(3 results)