2018 Fiscal Year Research-status Report
C4光合成における耐冷性機構の探索 ―熱放散と葉緑体温度の関連性に着目して―
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18K14450
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
中島 大賢 北海道大学, 農学研究院, 助教 (70710945)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 低温ストレス / トウモロコシ / ススキ / 光阻害 |
Outline of Annual Research Achievements |
葉緑体は,環境ストレス下において炭酸固定反応に利用されない余剰な光エネルギーを熱として散逸する機構,すなわち熱放散機構を備えている.低温ストレス下でも熱放散活性が増加することが報告されており,これが葉緑体内の極微小な温度環境に影響を及ぼすことも考えられる.しかし,熱放散によって生じる熱が葉緑体温度に及ぼす影響はこれまで報告されていない.そこで,2018年度はまず,葉緑体温度の計測を可能とする測定系を構築した. まず,ダイクロイックミラーユニットを搭載した光学顕微鏡に石英ファイバーを介して青色半導体レーザーを入射し,各種光学フィルターにより励起光と蛍光を分離し,検出系に分光器を接続することでレーザー誘起蛍光スペクトルを計測できる顕微分光システムを構築した.顕微鏡に搭載する光学フィルターの透過波長や反射率およびレーザー光源の波長の組み合わせを検討し,検出感度を調整した.加えて,循環液冷式温調ステージを作成し,極小熱電対で温度をモニターすることでサンプル温度の制御を可能とした.次に,緩衝液中に遊離させたトウモロコシ葉由来の葉緑体と感温性蛍光プローブを混合し,これを用いて測定条件の設定を行った.その結果,レーザーで誘起したクロロフィル蛍光の強度と感温性蛍光プローブの蛍光スペクトルを経時的に同時計測することができた.これにより,クロロフィル蛍光強度の減衰過程から熱放散活性を,また蛍光プローブのスペクトル比から葉緑体温度の推定が可能となった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の到達目標は葉緑体温度の測定系の構築であり,感温性蛍光プローブとクロロフィル蛍光スペクトルの同時モニタリングが可能となったことから初期目標に到達したと判断できる.一方で,より精度の高い測定を実現にするためには,測定条件のさらなる最適化が必要であり,この点が今後の課題である.以上を考慮し,おおむね順調に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は,本年度構築した測定系の精度を向上させるべく,さらなる測定条件の最適化を行う.また,熱放散活ならびに他の耐冷性関連形質が異なるトウモロコシ品種を用い,これらについて詳細な光合成特性の評価を行うとともに,熱放散活性と葉緑体温度との関連性を顕微分光装置を用いて明らかにする.さらに,C4植物でありながら低温下で高い光合成維持能力を示すススキ属についても同様の実験を行う.
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Causes of Carryover |
感温性蛍光試薬を効率的に使用して実験を行ったため,経費を節減できたことに加え,一部の光学部品は既存のものを代用したことで新規購入の必要性がなくなった.来年度以降は顕微分光装置を用いた測定の回数が大幅に増えることが見込まれるため,繰り越された経費は蛍光試薬に当てる.
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