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2020 Fiscal Year Research-status Report

チョウの食草選択的産卵行動を制御する高次情報処理機構の解明

Research Project

Project/Area Number 18K14478
Research InstitutionJT Biohistory Research Hall

Principal Investigator

宇賀神 篤  株式会社生命誌研究館, その他部局等, 奨励研究員 (00747032)

Project Period (FY) 2018-04-01 – 2022-03-31
Keywords食草認識 / 味覚受容体 / odorant binding protein / アゲハチョウ / 蛍光 in situ hybridization
Outline of Annual Research Achievements

チョウの仲間の幼虫は,多くが特定の植物のみを餌とする。メス成虫は「幼虫の食草」を膨大な植物種の中から正しく見分けて産卵している。前肢先端に分布する味覚感覚子で「幼虫の食草」に特有のいくつかの化学物質(産卵刺激物質)を感知するが,その分子機構に関する知見は,ミカン科を食草とするナミアゲハを用いた先行研究から,産卵刺激物質の一つであるシネフリンに対する味覚受容体Gr1が同定されているに留まる。2020年度は以下の二つの小課題を実施した。
1. 他の産卵刺激物質に対する味覚受容体(Gr)遺伝子の探索
ナミアゲハの産卵には,10種類の産卵刺激物質のうち,シネフリンを含めた5種類の化学物質が特に重要な役割を担うことが知られている。電気生理学的解析から「産卵刺激物質がそれぞれ特定のタイプの味神経細胞で受容される」ことが提唱されているが,シネフリン以外の4種類の物質について受容体が同定されておらず,Gr1についてもその発現量の少なさから発現細胞の可視化の試みは成功していない。食草選択的産卵行動のしくみを理解する上で,情報の入口となる受容体と発現する神経細胞の関係性を解明する必要があった。
2. Odorant Binding Protein(OBP)の解析
化学感覚においては,受容体だけでなく,リガンドの結合を調節するようなタンパク質が協調的に働くこと(取り込まれた化学物質が適切に受容体へ運ばれ,情報に変換された後は速やかに排除される)も重要と考えられている。こうした働きを担うタンパク質の一つとして,OBPのグループが挙げられる。OBPは保存された6個のαヘリックスと6個のシステイン残基を有する15kDa程度の小分子タンパク質で,化学物質を包み込むような立体構造をとる。ナミアゲハでは,前肢ESTライブラリを用いた先行研究から3つのOBPが同定されていたが,詳細な発現パターンは不明であった。

Current Status of Research Progress
Current Status of Research Progress

2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.

Reason

2019年度のIEGマッピングから,脳内において前脚への味覚刺激に応答する細胞が予想外に少ないことが明らかとなった。2020年度は新型コロナウイルス感染防止対策に伴う研究体制の見直しを受け,RNA-seq解析をメインに据えて研究を展開した。
1. Gr
RNA-seqのアセンブルおよびゲノムデータベースにおける探索から,現在までに30個程度のGr遺伝子が前肢に発現することが確認された。そのうち約半数の14遺伝子が他の付属肢と比して前肢に選択的な発現を示した。蛍光in situ hybridizationのプロトコルを改良することで,これら14個のうちGr1を含めた6遺伝子について,前肢ふ節の味覚感覚子基部における発現可視化に成功した。Gr1との二重染色から,Gr遺伝子ごとに異なる局在パターンを持つことも明らかとなった。発現している組織の扱いにくさと発現量の少なさから,非モデル昆虫においてGR遺伝子の発現をin situ hybridizationで高精度に可視化した例はほとんど存在せず,今後の展開の突破口となる大きな成果と考えている。
2. OBP
Grと同様の探索から,44個のOBP遺伝子が前肢に発現することが確認された。Grと対照的に,前肢で高発現していたものはわずか3遺伝子(OBP2, 3, 9)であった。このうちOBP2, 3は先行研究で同定されていたものである。OBP2, 9は他の肢や産卵管,口吻においても発現が見られたが,OBP3は口吻での発現は確認されなかった。OBP2, 9は味覚受容の基本機能を担うのに対して,OBP3はミカンの葉に直接接触し得る器官に発現し,産卵対象植物の識別に特化した役割を担う可能性が考えられる。機能を明らかにするためにRNAiによる発現抑制を試みたが,発現低下が確認できなかった。早期の論文化に方針を転換し,現在論文投稿中である。

Strategy for Future Research Activity

2020年度の解析から,ナミアゲハの産卵刺激物質受容体の候補として新たに13遺伝子を同定することができた。今後は,個々の候補遺伝子についてCRISPR/Cas9によるゲノム編集を実施し,電気生理学的解析からその機能を明らかにする必要がある。効率よく研究を進めるため,候補ごとに解析の優先度を付けたい。
ナミアゲハと最も近縁でありながらもセリ科食であるキアゲハ,ナミアゲハと同様にミカン科食であるシロオビアゲハ。これらについてはゲノムデータが利用可能である。また,前肢サンプルのRNA-seq解析も以前に実施済みである。興味深いことに,ナミアゲハとシロオビアゲハでは,産卵刺激物質のうちシネフリンとスタキドリンが共通する(逆に言えば,それ以外の産卵刺激物質は大きく異なる)。一方で,セリ科食のキアゲハも,ミカン葉抽出物提示である程度産卵することが既知である。食草認識機構の保存性と可変性を考える上で,シネフリン(Gr1相同遺伝子)およびスタキドリン受容体候補遺伝子は解析の最優先対象として扱う。食性と系統関係から,前肢で発現するGrについて種間で相同性を比較した際に,
①全体としてはナミアゲハとキアゲハの類似度が高く,ナミアゲハとシロオビアゲハはそれほどでもない
②一部の受容体に限ってはナミアゲハとシロオビアゲハの間の類似度が高い(シネフリンとスタキドリン受容体)
という状況が想定される。スタキドリン受容体については,幼虫からのアプローチもおこなう。ナミアゲハにおいて,産卵刺激物質(10成分)と幼虫の摂食刺激物質(11成分)で唯一共通しているのがスタキドリンである。成虫の前肢と幼虫の味覚器において共通して高発現するGrを探索する。最終的には,ゲノム編集個体において産卵刺激物質を提示した際にIEGマッピングを実施し,脳内の高次味神経細胞の活動に影響が出るかどうか確認する。

Causes of Carryover

2020年度は2019年度の未使用分約50万円を含んでの研究費運用であった。2019年度報告書に記載した2020年度の使用見込み通り,RNA-seq解析関連試薬等の購入に充て,未使用分の大部分を執行することができた。残りの65,566円は,蛍光in situ hybridization関連試薬1kit分に相当する額であり,2021年度に執行する。

  • Research Products

    (2 results)

All 2021

All Presentation (2 results)

  • [Presentation] ナミアゲハの前肢に発現する味覚関連遺伝子群の局在パターン2021

    • Author(s)
      宇賀神篤,尾﨑克久
    • Organizer
      第65回日本応用動物昆虫学会大会
  • [Presentation] ナミアゲハの前肢に発現するOdorant Binding Proteinの解析2021

    • Author(s)
      宇賀神篤,尾﨑克久
    • Organizer
      日本動物学会第91回大会

URL: 

Published: 2021-12-27  

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