2021 Fiscal Year Research-status Report
病害虫拡散予測および制御に関わる順応的最適化システムの構築と社会実装
Project/Area Number |
18K14493
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
伊高 静 東京理科大学, 理工学部経営工学科, 助教 (80776336)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ナラ枯れ / 被害予測 / 拡散制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
森林資源環境を取り巻く諸問題は複雑で、木材生産のみならず、生態系サービスへの関心も強まる中、現場における意思決定が難しくなっている。そのような現状で、意思決定をサポートするため、本研究では、病害虫の拡散を把握した上で、その被害を制御するためにどのように環境資源を管理していくかを提案するためのシステム構築を目指している。本研究は、過去の被害履歴や制御履歴のはっきりしている山形県、新潟県のナラ枯れを対象とした。ナラ枯れ被害有無、対応する30年分の気象データ、地形データ、樹種をGIS (Geographic Information System)を用いて地図上に重ね、さらに、送電線までの距離、前年被害メッシュまでの距離を算出し、紐付けられたそれぞれのデータと、被害が初めて発生するときの因果関係を分析した。その際、気象データ・地形データ・樹種・送電線・前年被害メッシュまでの距離を説明変数、被害発生を目的変数とし、機械学習の手法であるランダムフォレストを実施し、その特徴量の重要度を算出した。そして、現実に観察される要因を解釈しやすい様、その特徴量の重要度が高いものを利用して、機械学習の決定木を実施し、拡散シミュレーションのルールを決定した。拡散シミュレーションにはセルオートマトン法を用いた。ナラ枯れを制御する手法はいくつか存在するが、今回は比較的広域に被害を軽減させる効果のある「おとり丸太」を設置したと想定してシミュレーションした。結果は、被害の有無はほぼ前年の被害メッシュまでの距離で説明できること、また、おとり丸太を設置した場合のその被害の広がりをシミュレーションしたが、おとり丸太の有効範囲は500m程度であるため、被害を隙間なく完全に囲まない限りおとり丸太で被害拡散を防ぐことはできないということがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
被害が初めて発生するときの要因を分析するために、ナラ枯れ被害有無を目的変数、対応する30年分の気象データ(気温・日照時間・降水量・積雪量)、地形データ(標高・傾斜角・方角)、樹種(ミズナラ・コナラ・その他)、送電線までの距離、前年被害メッシュまでの距離を説明変数として解析を行ったが、被害の有無はほぼ前年の被害メッシュまでの距離で説明できることがわかった。完全に距離のみで説明できるわけではないが、その他の説明変数の影響は、地域ごとに少しずつ異なることもわかった。今回の解析では被害有無の2値を扱ったが、2値ではその広がりを捉えることができるのみであるため、今後は被害度、例えば激害、微害、激害と微害の中間、としてその広がりをシミュレーションする必要がある。 また、おとり丸太を設置した場合のその被害の広がりをシミュレーションしたが、おとり丸太の有効範囲は500m程度であるため、被害を隙間なく完全に囲まない限りおとり丸太で被害拡散を防ぐことはできないということがわかった。被害が発生し、枯死木を伐倒処理しなければならない場合と、おとり丸太の経費を比較すると、チップ等販売収入を差し引くと89%のコストダウンとなることが分かっている。とはいえ、全ての被害を完全に囲む形でおとり丸太を設置することは、コストや労力を考えると現実的ではない上、ナラ枯れの様な勢いで広がる病虫害の拡散を阻止するのは難しいことが明らかになった。よって今後は、より粒度を下げ、その被害とコストを最小限に抑えるおとり丸太設置場所を解析的に求めることとしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今回の解析では被害有無の2値を扱ったが、2値ではその広がりを捉えることができるのみであるため、今後は被害度、例えば激害、微害、激害と微害の中間、としてその広がりをシミュレーションする予定である。そうすれば、現場において、その被害度に応じた対応が可能になると考える。 さらに、被害の広がりを食い止めるため、全ての被害を完全に囲む形でおとり丸太を設置することは、コストや労力を考えると現実的ではない上、ナラ枯れの様な勢いで広がる病虫害の拡散を阻止するのは難しいことが明らかになった。そこで今後、森林管理者が被害を最小限に抑えるための意思決定の指針にできるよう、より多くの被害をカバーできるような最適なおとり丸太設置場所を解析的に求めたい。そのためには、本研究の1kmメッシュよりも細かいスケールで被害地をマップ化し、おとり丸太設置条件に合う箇所 (傾斜・樹種・地形・方角等)をGISを用いて抽出し、どこに設置すると最も被害をカバーできるか、を算出する予定である。 つまりR4年度は、拡散モデルの改良と同時に、被害コストと設置コストを考慮したより効率的に制御するためのおとり丸太設置場所の解析を行い、最終的には、その拡散の予測と最適な制御の提案ができるようなシステム構築を目指す。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため、計画していた国際会議への参加を断念したため、差額が発生した。
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