2018 Fiscal Year Research-status Report
樹皮における乾燥・湿潤をトリガーとした分子制御機構の解明
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18K14501
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小林 加代子 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任助教 (00806416)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 樹皮 / 木材組織 / バイオメカニクス / 水和 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では樹木における“樹皮”の部分に注目し、樹皮の物性と乾燥や肥大成長に伴う落屑プロセスのメカニズムとの関係を探る。本年度は樹皮と水との関係を理解するための水吸着測定と、樹皮が肥大成長で外側に押し出される過程における変化を観測するためのX線小角散乱測定を行った。具体的な内容を以下に示す。 スギ(Cryptomeria japonica)の外樹皮を放射方向に分割し、それぞれの領域についてX線小角散乱測定を行った。得られた散乱パターンからセルロースミクロフィブリルが樹木の繊維方向に対してどの程度傾斜しているのかを計算したところ、内側から外側に向かって徐々に大きくなることがわかった。この結果は、スギ樹皮が肥大成長に伴って外側に押し出される際に繊維軸方向に収縮していることを示していた。スギ樹皮は長軸方向と平行に亀裂が生じる、いわゆる縦割れのパターンを示す樹皮である。しかしながら樹皮は接線方向のみでなく繊維方向にも収縮し、落屑プロセスを加速させていることが示唆された。 オオヤマザクラ(Cerasus sargentii)、シラカバ(Betula platyphylla)、ケヤキ(Zelkova serrata)の外樹皮について水吸着測定を行った。いずれの樹皮も水分吸着量については一般的な木材と比較して小さくなったが、これは樹皮が疎水的なスベリンという成分を多く含むためであると考えられる。一方、吸着と脱着過程とに差が生じるヒステリシスは顕著に見られ、その程度は木材と比較して同等もしくは大きかった。樹皮は吸着する水が僅かであるにもかかわらず、一度吸着した水は脱着しにくい構造を有していることになる。これは樹皮にとって水が重要な役割を果たしていることを示唆するものであり、サクラ樹皮の含水率が非常に小さいにもかかわらず、乾燥によって物性が大幅に変化するという以前の研究と矛盾しない結果であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
樹皮の物性解析については順調に進展し、新たな知見が得られてきた。一方、当初の計画では実際の樹木における樹皮の変化を観測する予定であったが、変化が小さいために計画通りには進まなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
物性の解析に関しては、当初の計画通りこのまま推進する。樹木の観察については方針を切り替え、樹皮を採取したのちに人工的に乾燥させるなどして落屑するプロセスと物性との関係を調べたい。
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