2020 Fiscal Year Research-status Report
樹皮における乾燥・湿潤をトリガーとした分子制御機構の解明
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18K14501
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小林 加代子 京都大学, 農学研究科, 助教 (00806416)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 樹皮 / 木材 / 固体NMR |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では樹木における“樹皮”の部分に注目し、樹皮の物性と乾燥や肥大成長に伴う落屑プロセスのメカニズムの関係を探る。本年度はそのメカニズムを探るため、固体NMR測定による樹皮の構造と分子運動性の解析を行った。 固体NMR測定は、特別な前処理を必要とせず、固体状態を保ったままの試料が測定可能である。NMRは原子核周りの局所的な情報を得ることができるため、固体試料中の原子について結晶・非晶にかかわらず構造的な情報が得られる。さらに緩和時間測定を行うことにより、分子運動性や成分間の距離についても議論が可能である。ただし、一次元の固体NMR測定では樹皮の複数の成分に由来するピークを完全に分離することはできない。そこでまず構成成分分析を行い、化学的な組成を明らかにすることにした。その結果、樹皮の約18%を抽出成分が占め、スベリンとリグニンがそれぞれ38%と28%、セルロースを含む多糖成分はわずか16%にとどまることがわかった。また、ヘミセルロースはマンノースやアラビノースが比較的多く含まれる構造であった。 続いて固体13C NMR測定を行った。通常の木材から得られるスペクトルと比較すると、スベリンに由来するピークが明瞭に観察された。プロトンの縦緩和時間測定を行ったところ、スベリンが他成分と比較して緩和時間が長いことがわかった。このことは、スベリンが他成分のスピン拡散の影響を受けない距離に存在していることを意味している。これはスベリンが細胞壁内で独立な層として存在しているという、顕微鏡観察の結果と一致した。また、スベリン層が他成分の層と比較して分子運動性が低いことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究は、昨年度に立てた計画通りに進行した。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までに、樹皮は乾燥状態から湿潤させていくと相対湿度約60%程度で貯蔵弾性率が最大となることがわかっている。そこで今後は樹皮の含水率を制御した試料を用いて固体NMR測定を行い、物性変化の詳細なメカニズムの解明に挑む。
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Causes of Carryover |
外部施設での実験ができなくなったため。次年度は同実験が可能となる予定であるため、その利用料および旅費に使用する。
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Research Products
(1 results)